
【助産師の基本】妊娠高血圧症候群の妊産婦に対するケアまとめ|HDPの看護
- HDP
- 妊娠高血圧症候群
妊娠高血圧症候群(HDP)の病態生理
1)病型分類
「hypertensive disorders of pregnancy :HDP」

2)診断
妊娠時に高血圧を認めた場合に診断されます
収縮期血圧:140mmHg以上または拡張期血圧:110mmHg以上の場合に高血圧と診断
収縮期血圧:160mHg以上または拡張期血圧:110mmHg以上の場合は重症
また、妊娠34週未満に発症するものを早発型、34週以降を遅発型といい、早発型の方が重症化しやすいといわれています

パンダ先輩
尿蛋白はテステープを用いた検査では30㎎/dlで1+、100㎎/dlで2+、300㎎/dlで3+と陽性反応になるよ
3)リスク因子
初産婦、肥満、多胎妊娠、高齢妊娠、妊娠高血圧症候群の既往、既往に高血圧や腎臓病・糖尿病・自己免疫疾患のある方、両親が高血圧の方など
妊娠高血圧症候群の管理
1)妊婦健診時の保健指導
まず、初診時の保健指導にてリスク因子の把握をすることは必須であり丁寧な情報収集が大切となります。その後の妊婦健診においても妊婦の訴えや変化に十分注意し、必要時医師へ報告することも助産師の大きな役割といえます
①妊婦健診での観察:通常、妊婦健診で行っている体重、血圧、尿蛋白の検査は妊娠高血圧症候群の主徴につながる重要項目である。体重増加においてはHDP合併時はBMI普通では+9㎏以内、BMI肥満では5㎏以内が望ましい
②栄養指導:厳しい塩分制限は不要とされている。余計なストレスを与えず、セルフケア能力を向上させやすい伝え方が大切。妊娠高血圧症候群の場合は6g未満/日が塩分摂取量目安とされており、日本人女性の普段の塩分摂取平均は9.3g/日。日常生活に取り入れやすい変更案等を提案し、普段の食事から少しずつの減塩が心掛けられたら理想である

パンダ先輩
目安としてはお味噌汁1杯で塩分約1.2g、梅干し1つで約2g含まれるといわれているよ
③安静:過度な安静や運動制限は推奨されておらず、HDP軽症妊婦に対しては適度な運動(ストレス・疲労を感じない程度の運動、日常生活動作)は継続してよいとされている。重症の場合は管理入院となる場合が多く、安静にすることで交感神経の緊張が緩和され血圧は上がりにくくなる。入院した場合は深部静脈血栓症予防のため弾性ストッキングを着用するケースが多い。HDPでは浮腫みを呈していることもある為ストッキングによる皮膚トラブルにも注意が必要
2)入院中の管理
①バイタルサイン測定…1日の血圧測定回数やタイミングは重症度によって異なるため医師への確認が必要。肺水腫のリスクもあるためSpO2値の測定も必要となる
②血液検査…血算の他に肝機能・腎機能・凝固溶解系の検査も行う
③尿検査…尿定量検査、蓄尿による尿量測定
④薬物療法…安静目的の管理入院を行っても十分な降圧や安定化が図れなければ内服薬の使用も検討される。1剤~3剤までの併用が可能
【妊娠中に経口可能な降圧薬】
・交感神経抑制剤…メチルドパ、ラベタロール
・血管拡張薬…ヒドララジン、ニフェジピン
それでも降圧不十分な場合は静注薬(ニカルジピン塩酸塩、ニトログリセリン、ヒドララジン塩酸塩)の使用が検討される。とくに臨床ではニカルジピン静注薬が多く使用されるが、短時間での過度な降圧は胎児機能不全をきたす可能性があるため薬剤の初回投与や流量変更時は胎児心拍モニタリングも同時に行う必要がある
⑤胎児well-beingの観察…妊娠高血圧症候群では胎盤の発育・機能不全が生じやすく、併せて胎児発育不全・胎児機能不全も生じやすくなる。最低1回/週の経腹超音波断層法、最低1回/日の胎児心拍モニタリングを行う
3)観察のポイント
妊娠高血圧症候群の場合は、病態そのものによる症状と、合併症を疑う症状があることを理解して観察する必要があります。合併症による随伴症状の早期発見は、重症化や急変の予防につながるといえます
・高血圧/尿蛋白…病態そのものによることが多い。急激な血圧上昇や尿蛋白増加は重症域への移行や急変への注意が必要
・体重…500g以上/週の体重増加が続いたり、急激な体重増加(2kg/週以上)がみられた場合は体内に余分な水分の貯蓄(尿量の減少)をしている状態であり腎機能の低下を示している可能性もある
・頭痛、頭重感、眼窩閃光、視力障害…子癇発作の前駆症状を疑う
・心窩部痛、胃痛、食欲不振、悪心、嘔吐…HELLP症候群を疑う

主な合併症
1)子癇発作
妊娠中19%、分娩中37%、産褥期44%と妊娠後期になるにつれ発症率が上がっていく。HDP重症の場合は子癇発作予防のため硫酸マグネシウム(マグセント)の使用や、軽症域までの降圧が考慮される。初回発作は数分であるが繰り返す場合は重篤となりやすい。妊産婦が痙攣を発症した場合は救急処置が最優先され人手確保、バイタルサイン測定、気道確保と酸素投与、ルート確保、胎児心拍の確認が必要とされる。子癇発作後は瞬時に胎児機能不全に陥りやすく、発作終了後も胎児徐脈が継続する可能性を認識しておく
2)脳卒中
臨床症状として意識障害、運動麻痺、失語、痙攣、眼球位置異常、視野障害などがある。出血による一時的脳障害、脳浮腫、脳圧亢進、脳ヘルニアが母体予後を悪化させる。診断にはCTが優れており脳神経外科との連携が必要
3)HELLP症候群
妊娠後期~産後に発症しやすく、突然の上腹部痛や血小板の減少、肝酵素の上昇、溶血が主病態となる。発生頻度は全妊婦の0.2%〜0.6%と低いが、急激に症状が進行することもあり妊産婦死亡率は1〜25%と非常に高い。HELLP症候群に対しては妊娠の終了及び血小板輸血などDIC(播種性血管内凝固症候群)の合併も考慮した治療が必要とされる
4)常位胎盤早期剥離
リスク因子として妊娠高血圧症候群が挙げられるが、はっきりとした関連はわかっていないことが多い。発症すると短時間で子宮内胎児死亡、母体DIC、母体死亡など重篤な転帰をとる疾患のため、妊産婦の訴え中に常位胎盤早期剥離を疑うものがないか見落とさないことが重要
その他合併症:胎児発育不全、胎児機能不全、子宮内胎児死亡、肺水腫など
治療法
妊娠高血圧症候群では根本的治療はなく、最終的な治療方法は妊娠の終了(分娩)とされています
1)分娩時期の決定
母体の安全と、胎児の成熟の両立を目指して決定される。胎児の成熟を図るため妊娠34週までは原則待機とされているが、いずれかに危険が迫っている場合は妊娠週数に関わらず分娩が考慮される

パンダ先輩
34週未満の分娩が想定される場合は、胎児の肺の成熟を促すステロイド剤が投与されることがある。できれば投与後48時間以上経過してからの分娩が望ましいとされているよ
2)分娩様式
分娩様式は母児の状態を考慮して判断される
・経腟分娩:妊娠37週以降で母児の状態が緊迫していない状況では経腟分娩が第一選択となる
・吸引/鉗子分娩:怒責による血圧上昇の防止、分娩第2期短縮のため選択される場合がある
・無痛分娩:陣痛による疼痛を緩和し血圧上昇を軽減することができる。加えて副交感神経優位になることで直接的な降圧作用も期待できる。硬膜外麻酔単独の場合と脊椎麻酔併用硬膜外麻酔が勧められている
・帝王切開術:高血圧に加えて他臓器不全や胎児機能不全を認める場合は選択的帝王切開となることが多い。経腟分娩が選択されたとしても、分娩中に血圧の重症域値が継続したり胎児機能不全となった場合、その他合併症の併発が疑われる場合は緊急帝王切開となる可能性も大いにある
分娩時、産後のケア
1)母体の観察
分娩中は定期的な血圧測定が必須である。血圧測定のタイミングは原則陣痛間欠時とし、測定間隔や上昇時の報告値についても医師と確認しておくことが大切である。合併症の随伴症状含め、異常の早期発見が母児の安全を守るためには欠かせない
2)使用薬剤と副作用の観察
分娩中にも静注薬を使用し子癇発作予防、降圧を図ることがある。血圧値や胎児状態によって投与量や速度が変更される場合もあるので医師との連携が重要となる
3)胎児心拍モニタリング
原則として継続的に胎児well-beingの評価を行う必要がある
4)産褥期
定義には当てはまりませんが、産後に初めて高血圧を認めることも臨床では稀に遭遇します。また、HELLP症候群30%、子癇44%、脳卒中36%が産褥期に発症するとされており、産後の全身管理も慎重に行う必要性があることがわかります。
①全身管理
全例に対して少なくとも産後48時間はバイタルサインやin-outバランスを厳重に管理し、採血検査は値が正常化するまで観察する必要であるとされています。
分娩中に降圧治療を行っていた場合は産後も継続し、重症域であった場合は160/110㎜Hg以下へ、または妊娠前のコントール域を目標に管理されます
②メンタルケア・育児支援
早産や予期せぬ分娩となった場合、母親は自責の念を抱くことも多い。傾聴や寄り添いなどメンタルケアを行い、その後の育児が前向きなものとなるよう関わる必要があります。
また、授乳などの育児が始まると休息が疎かになりやすく、睡眠不足や疲労は高血圧につながります。適度な休息の必要性も伝えることも大切です
妊娠高血圧症候群を発症した人は将来的に高血圧症や糖尿病、脂質異常症といった生活習慣病を発症するリスクが高いこともわかっています。将来を見据えた健康管理のためにも継続したセルフケアの重要性も伝える必要があるといえます。
妊娠高血圧症候群の看護は保健指導から合併症を考慮した対応まで多岐にわたりますが、異常の早期発見と適切なケアによって重症化を防ぐことができます。妊産婦に最も近く寄り添うの助産師です。母児の健康を守るために小さな変化を大切に観察していきましょう。

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