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分娩期
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2026
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分娩期
産後出血・高血圧に備える|助産師が知っておきたい分娩後の薬剤知識
- 産後
- 産後出血
- 高血圧
SUMMARY
この記事でわかること
分娩はお母さんと赤ちゃんにとって一生に一度の大切なイベントです。そして、助産師にとっても分娩介助は緊張感のある瞬間になります。特に出産直後の母体管理はとても重要で、万が一のトラブルに備えておく必要があります。分娩後のトラブルは母体の命に関わる可能性もあり、迅速に対応しなければなりません。分娩後の出血は短時間で急激に進行し、判断の遅れが命に直結することもあります。こうしたトラブルに備えるためには、「どの薬を、なぜ、どのように使うのか」を理解しておくことが大切です。現場では医師の指示で投与されることがほとんどですが、助産師が薬の特徴を把握しているとアセスメントの精度が高まり、より安心してケアを行うことができます。この記事では、分娩後のトラブル対応で知っておきたい子宮収縮剤、止血剤、降圧剤についてそれぞれの作用や副作用、使用上の注意をまとめてみました。
子宮収縮剤
産後出血の原因の約70〜80%は「子宮収縮不全(弛緩出血)」です。正常であれば分娩後の子宮は急速に収縮し、胎盤が剥がれた部位の血管を圧迫して止血します。しかし、子宮の収縮が不十分だと出血が続いてしまいます。そのため出血したらまず子宮収縮を確実にすることが救命の第一歩です。子宮収縮剤は分娩後のルーチン投与としても広く使用されており、助産師にとって最も身近で重要な薬のひとつです。作用や副作用など特徴を整理して覚えておくことで「どの薬を選択するべきか」「どの患者さんには禁忌なのか」が分かりやすくなります。
オキシトシン(アトニン)
- 特徴:子宮を律動的に収縮させ、自然な収縮に近い作用を示します。陣痛誘発や促進にも使用されます。喘息患者にも安全に使用できる点が大きな利点です。
- 持続時間:効果は短時間で切れるため、持続点滴として投与されることが多いです。
- 副作用:大量投与では水中毒や低Na血症が起こることがあります。まれに血圧低下や頻脈も見られます。
- 観察のポイント:投与後は「子宮底」「硬度」「出血量」の変化をセットで確認します。子宮収縮が不十分なら追加投与や他薬への切り替えが必要です。
メチルエルゴメトリン(パルタン、メテルギン)
- 特徴:子宮を持続的に収縮させる薬で、オキシトシンよりも持続時間が長く、強い止血効果を期待できます。
- 使用場面:オキシトシンだけで止血が不十分な場合に追加されます。分娩前の投与は胎盤循環が障害されるため禁忌です。
- 副作用:末梢血管収縮作用が強く、血圧上昇や頭痛を起こします。喘息や心疾患を持つ患者には禁忌です。
- 観察のポイント:投与後は必ず血圧をチェックします。血圧上昇が認められる場合には投与を中止したり、血圧のモニタリングが必要です。
プロスタグランジン(カルバプロスト、ミソプロストールなど)
- 特徴:強力な子宮収縮作用を持ち、オキシトシンやメテルギンで不十分な時に使用されます。
- 副作用:嘔気、腹痛、発熱、下痢などがあります。気管支収縮作用があるため喘息患者には禁忌です。
- 観察のポイント:投与後は消化器症状や発熱に注意し、必要に応じて解熱鎮痛剤を併用することがあります。

止血剤 ― 子宮収縮剤を補助する役割
止血剤は単独で止血できる薬ではなく、「子宮収縮剤と組み合わせて止血をサポートする」役割を担います。DIC(播種性血管内凝固症候群)を防ぐ意味でも重要です。
トラネキサム酸(トランサミン)
- 作用:抗線溶薬。血栓を分解するプラスミンを抑え、血栓を安定化させます。WHOも産後出血の初期治療薬として推奨しており、産後出血発症から3時間以内に投与すると母体死亡率を有意に下げることが知られています。
- 注意点:血栓症の既往やリスクのある患者では慎重に投与します。腎障害があるときは排泄遅延に注意が必要です。
- 観察のポイント:呼吸困難や下肢の腫脹など、血栓症を示唆する症状に注意が必要です。
カルバゾクロムナトリウムスルホン酸(アドナ)
- 作用:毛細血管透過性を抑えて出血時間を短縮する薬です。単独では止血効果が弱いため補助的な薬剤として使用されます。
- 特徴:安全性が高く、副作用も少ないためトラネキサム酸とセットで投与されることが多いです。
降圧剤 ― 母体の脳と臓器を守る
妊娠高血圧症候群や分娩後高血圧は、脳出血や子癇発作につながる重大なリスクです。血圧の上昇が急であるほど危険性は高く、助産師は「どのレベルの血圧で、どの薬を使うか」をイメージしておくことが大切です。
ニカルジピン(ペルジピン)
- 作用:Ca拮抗薬。静注で即効性があり、急激な血圧上昇に対応できます。
- 特徴:作用時間が短く、細かく調節できるため緊急時に適しています。
- 観察のポイント:数分おきの血圧測定が必須。降圧しすぎて胎盤循環が低下しないよう注意します。
ニフェジピン(アダラート)
- 作用:Ca拮抗薬の内服薬。ゆるやかに降圧します。
- 特徴:母乳移行が少なく、授乳中でも安全性が高い薬です。長期管理にも向いています。
- 観察のポイント:頭痛や動悸などの副作用に注意しつつ、効果の安定性を確認します。
ヒドララジン(アプレゾリン)
- 作用:動脈を拡張して血圧を下げます。
- 特徴:子癇発作の予防や急な高血圧時に使用されることがあります。
- 観察のポイント:反射性頻脈が起こることがあるため、心拍数もチェックします。
ラベタロール(トランデート)
- 作用:α・β受容体を遮断し、心拍数を抑えつつ血管を拡張します。
- 特徴:降圧と同時に脈拍もコントロールできる薬です。
- 注意点:喘息患者には禁忌です。
- 観察のポイント:徐脈や低血圧の出現に注意します。
メチルドパ(アルドメット)
- 作用:中枢性に交感神経を抑えて血圧を下げます。
- 特徴:古くから妊娠中・産褥期の管理に使われ、安全性が確立されています。効果はマイルドで、長期的なコントロールに向きます。
- 副作用:眠気や倦怠感、肝機能障害などがあり、長期投与では肝機能検査が必要になることがあります。
ACE阻害薬・ARB
- 妊娠中は胎児に腎障害を起こすため禁忌ですが、授乳中は一部の薬が使用可能です。
硫酸マグネシウム(マグセント) ― 子癇発作の予防と管理
妊娠高血圧症候群に伴う子癇発作は、母体の生命を脅かす重大合併症です。硫酸マグネシウムはその予防と再発防止に使われる「第一選択薬」です。
- 作用:中枢神経の興奮を抑えて痙攣を予防します。また末梢血管を拡張し、軽度の降圧作用もあります。
- 副作用:呼吸抑制、腱反射消失、徐脈、意識障害などがあります。
- 観察のポイント:投与中はバイタルサイン・尿量・腱反射の観察が欠かせません。過量時にはカルシウム製剤が解毒薬になります。
- 臨床での注意:痙攣そのものを止める薬ではないため、実際の発作時にはジアゼパムなど鎮静薬を併用することもあります。
分娩後の母体管理において、薬の知識は助産師の安心・安全なケアを支える大切な土台です。産後出血は適切に治療介入し、DICへの進展を防ぐことがとても重要です。急激な血圧上昇は脳血管に強い負担がかかり脳出血や脳浮腫を引き起こし、子癇発作に繋がるため分娩前後の血圧管理は母体の脳保護の観点からも必須です。それぞれの薬剤の特徴や投与時の観察ポイントを理解しておくことが安全な分娩管理につながります。
参考文献:薬がみえるvol.2 治療薬マニュアル2025 今日の治療薬2025
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