#
妊娠期
4
/
29
2024

無痛分娩って実際どうなの?現場で働く助産師の本音

    SUMMARY
    この記事でわかること
    無痛分娩とは、麻酔を使用して陣痛の痛みを緩和する出産方法です。日本では1970年代より始まり、2000年代から麻酔科医の介入が進んだことで徐々に普及しています。この記事では、実際に臨床で無痛分娩に関わる助産師の率直な意見をまとめてきます。

     日本での無痛分娩率は、2018年に全分娩数の5.2%であったのに対し、2023年には11.8%に増加しています。この数字から見ても、ここ数年で無痛分娩件数が2倍以上に増加しており、今後も増えていくことが予想されます。

    一方で、無痛分娩ができる施設数はまだまだ多くありません。少子化が進み、分娩を取り扱う施設の生存競争も激しくなってきているため、これから無痛分娩の導入を始める施設も多いと思います。ぜひ今後の参考にしていただければと思います。

    アンケート結果

    それでは次に、無痛分娩を実際に取り扱っている臨床の助産師へ焦点を当ててみていきます。じょさんしナビのInstagramアカウントをフォローしてくれている助産師さんへアンケートをとりました。

    まず、助産師自身が出産する時に無痛分娩を選択するかどうか意見を聞いた結果、86%の助産師が自然分娩を選択しました。

    この結果は、助産師だからこそ陣痛を経験したいという興味やプライドも大きく影響していそうですよね。百聞は一見にしかずというように、実際に経験して初めて、本当の意味で陣痛を知り、陣痛中のケアや声かけの大切さを実感できる機会になると思います。この経験から、今後の自分のケアや共感、寄り添い方が変わるかもしれないですよね。


    また、直接介助をする場合自然分娩と無痛分娩どちらが良いかという質問の結果は、92%の助産師が自然分娩を選択しました。以下にそれぞれの意見をまとめます。

    自然分娩を選択した意見

    集まったアンケート結果の主な意見をまとめます。「自然分娩は痛みは辛いけれど介入にやりがいがある」「生命の神秘を感じる」「無痛分娩のリスクを考慮すると自然分娩が良い」「無痛分娩の時にフルモニターで拘束され動けないのが辛そう」「初産婦は難産になりやすい」という意見がありました。

    出産には痛みがあってこそ!自然分娩が好ましい!という意見はなく、やはり無痛分娩のリスクを加味して自然分娩を推奨、という意見が多かったです。リスクを知っているからこそ、お勧めできないという気持ちはすごくわかります。


    無痛分娩を選択した意見

    集まったアンケート結果の主な意見をまとめます。「命の誕生の瞬間を笑顔で迎えられることが良い」「産後の体の疲労度が圧倒的に違う」「産婦さんや家族の満足度が高い、それによるクレームが少ない」「不安が強い・パニックになる人は無痛分娩がオススメ」という意見がありました。

     ママが出産に対して満足感を得られることは、産後のメンタルや育児への影響もあり、とても重要ですよね。実際に自然分娩をした後「次は全体に無痛分娩にする」と宣言するママを何人も見たことがありますし、分娩方法を自分で選択してお産に臨むということは重要だと思います。無痛分娩はクレームが少ないという意見はリアルですよね(笑)。自然分娩で「助産師がそばにいてくれなかった、なかなか部屋に来てくれなかった」というクレームを受けることもあると思います。これは陣痛中の痛みや辛さ、孤独感の中で一人にされたという意識による反応も大きいと思うので、痛みが少ない無痛分娩では、このようなママの不安・不満が生まれにくいのでしょう。

    無痛分娩のメリット

     無痛分娩のメリットは大きく分けて3つあります。

    1.痛みの軽減

    2.母体のストレスの緩和

    3.緊急帝王切開への親和性の高さ

     陣痛の痛みが経験されることは、無痛分娩の最大のメリットですよね。「鼻からスイカが出るような」「指を切断したような」「腰の上をダンプカーが通過したみたい」などたくさんの比喩表現がありますが、陣痛が想像を絶する痛みであることは間違いないですよね。そんな痛みを麻酔で緩和し半分以下の強さで出産できれば、産後の回復が早くなることは一目瞭然です。

     また、産婦さん自身の恐怖心は分娩を妨げる原因になります。そのため痛みに対する心理的ストレスを軽減することで、リラックスしてお産に臨むことができますよね。

     無痛分娩のための硬膜外カテーテルは、そのまま帝王切開で使用することができるので、緊急帝王切開になる場合に麻酔の導入が速やかである点もメリットの一つです。陣痛中に麻酔時の体位保持は産婦さんにとって苦痛が大きいこと、緊急帝王切開で速やかに胎児娩出を図るために麻酔導入がスムーズになることは大きなメリットです。

    無痛分娩のデメリット

     考えられる影響は大きく分けて3つあります。

    1.分娩が遷延する

    2.胎児に負担をかける

    3.母体への後遺症

     アンケート結果にもある通り、助産師が一番懸念していることは①分娩が遷延することです。硬膜外麻酔により痛みが和らぐことで、お産の平均時間が長くなります。そのため、分娩第二期遷延、吸引分娩や鉗子分娩となる確率や、促進剤を併用する確率が上がります。吸引分娩になる確率は、自然分娩で8%であるのに対し、無痛分娩では約20%にまで上昇するといわれています。吸引分娩により会陰切開や裂傷が大きくなり、産後の創部痛が強いことも多いですよね。

    ちなみに無痛分娩による帝王切開率は、意外にも自然分娩と比較しても差がないという結果が出ています。

    遷延分娩や器械分娩により、②胎児への負担がかかるという影響も大きいです。陣痛促進剤を併用する場合も多く、胎児機能不全を来たす可能性もあります。

    また非常に稀なケースですが、③母体への後遺症もあります。主に硬膜外麻酔による副作用やアレルギー反応が大半ですが、確率としては高くありません。また無痛分娩の硬膜外麻酔による胎児への悪影響は報告されていません。

    患者の選択と助産師の役割

     無痛分娩をするかどうかは、妊婦や家族の希望により決定します。その時にも、希望に応じて情報提供をしたり、医師へ説明を依頼することが意思決定を支える助産師としての役割です。母体の健康状態によって医学的に無痛分娩が推奨される場合もありますし、無痛分娩を希望していても費用が高額になるため躊躇する人もいます。妊婦が何を大事にして出産方法を選択するかは人それぞれなので、正しい情報を持った上で妊婦が納得して出産に臨み、満足した出産体験にできるよう支援していく必要があります。

     無痛分娩に関する助産師の率直な意見をまとめました。無痛分娩は産婦の満足度が高くメリットも大きいですが、リスクから目を背けることはできません。ただし人員配置や施設のマニュアル、施設全体での緊急時の対応能力が十分であれば、いたずらに怖がる必要もないですよね。そのため無痛分娩を導入している施設ではより、急速遂娩や新生児蘇生の対応力を整えておく必要があります。どの出産にもリスクは必ずあるため、助産師としてもリスクだけをみて妊婦さんの選択肢を減らすことはしたくありません。妊娠中から適切な情報提供を行い、妊婦さんが正しい知識をもって出産方法を選択できるよう、助産師としてサポートしていくべきだと思います。


    参考文献

    国立大学法人 浜松医科大学「硬膜外無痛分娩 説明書」

    https://www.hama-med.ac.jp/hos/cent-clin-fac/perinatal-ctr/mt_files/mutsuu_bunben_about.pdf#page=2

    聖路加大学 あなたらしい産痛を和らげる方法を求めて

    https://www.healthliteracy.jp/decisionaid/pdf/200319_da.pdf


    関連の記事も読んでみる
    2024.10.04
    #
    分娩期

    【産科の基礎知識】HELLP症候群の病態生理|助産師が知っておくべき観察項目と対応

    • 疾患と治療
    • HELLP症候群
    2024.09.26
    #
    妊娠期

    【助産師の基礎知識】妊娠と甲状腺の関係について深掘り|甲状腺機能低下・亢進の原因と看護

    • 甲状腺疾患の管理方法
    • 胎児への影響
    • 産後の注意点
    2024.09.18
    #
    産褥期(育児)

    母乳分泌の過程とホルモンの関係|助産師が知っておきたい母乳育児支援

    • 母乳育児
    • 母乳分泌促進ケア
    • 育児支援
    2024.09.18
    #
    妊娠期

    【助産師必修】子宮収縮抑制剤と切迫早産の治療 副作用と看護のポイント

    • 切迫流早産
    • 子宮収縮抑制剤
    • 切迫早産治療薬
    2024.08.29
    #
    妊娠期

    【致死率3割の感染症】劇症型A群溶血性レンサ球菌の病態と看護|助産師として保健指導で伝えたいこと

    • GAS
    • 妊産婦の感染症
    • 保健指導
    2024.08.29
    #
    妊娠期

    【永久保存版】妊婦健診で検査する感染症まるわかり|外来助産師の基礎知識

    • 妊娠初期検査
    • 外来看護
    • 感染症
    関連の記事をもっと読む