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分娩期
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16
2025
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STS(早期母児接触)の適応とメリットを解説|助産師がみるべきポイント

  • カンガルーケア
  • 早期母児接触
  • 愛着形成
SUMMARY
この記事でわかること
出産という大きな山を越えた直後、母親と赤ちゃんが初めて肌と肌を通して触れ合う時間、それが「STS(Skin to Skin Contact:早期母児接触)」です。この時間には、母子の愛着形成や赤ちゃんのバイタル安定、そして母乳育児の成功に深く関わりがあり、科学的にも多くのメリットが報告されています。かつては、出生後すぐに計測や処置を優先することが一般的でしたが、STSの有用性が明らかになるにつれて、医療現場では「できるだけ早く・できるだけ長く」母子が接触できるよう配慮するようになってきました。ですが、効果的に行うためには、安全性への配慮や適応の判断、細やかな観察が欠かせません。ここでは、母子が安全に効果的なSTSを行えるように、助産師として知っておきたいSTSの適応や期待されるメリット、そして実践する上でのポイントを確認しましょう。
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この記事の目次
  • STSの目的
  • STSのメリット
  • STSの方法と基本ステップ
  • STSの適応と注意点
  • 助産師の観察ポイント
  • 出生直後にSTSが実施できない場合

出産直後、生まれたばかりの赤ちゃんを裸の状態で母親の胸元に抱かせ、肌と肌を密着させ一定時間そのままの状態で過ごすケア方法、それが「STS(Skin to Skin Contact):早期母児接触」です。STSは、出生直後にできるだけ早く・中断せず・継続的に母子が接触することを重視しており、WHO(世界保健機関)やUNICEFも推奨しているケア方法です。医療技術が進歩した現代でも、人と人との触れ合いが持つ力は計り知れません。特に、生まれて間もない赤ちゃんと母親との間で行われる肌と肌の接触は、命を守り育てるためにとても重要な意味を持っています。もちろん、すべての母子に一律に適用できるわけではなく、安全性を十分に評価しながらの判断が必要です。だからこそ助産師として、何を観察し、どのように介入するかが問われます。助産師として、STSの基本や実践方法、注意点をわかりやすく解説します。

STSの目的

・新生児の呼吸循環の安定化

・新生児の体温維持をはかる

・授乳行動を促進する

・母子の愛着形成を促す

・母親のオキシトシン分泌による子宮収縮や母乳分泌を促進する

STSのメリット

<赤ちゃんにとってのメリット>

・呼吸・心拍の安定
母親の心音や呼吸リズムが、赤ちゃんの自律神経に働きかけ、呼吸数や心拍数を安定させます。また、うつ伏せのポジショニングにより酸素を取り込みやすくなります。

・体温安定
母親の胸はまるでインキュベーターのように自然に調節する働きがあり、冷えやすい新生児の体温を保ちます。

・低血糖の予防
早期の吸啜行動が促され、初乳を摂取することで血糖値の急激な低下を防ぎ、安定しやすくなります。

・ストレス軽減
STS中の赤ちゃんは、啼泣が少なく、リラックスした状態になることが多いです。

<母親にとってのメリット>

・オキシトシンの分泌促進
子宮収縮を促し、産後出血を予防します。子宮収縮と乳汁分泌の両方に良い影響があります。

・母乳分泌が促される

新生児の吸啜行動が早期に引き出されることで、乳頭への刺激が入りやすくなります。

・産後の情緒安定
自分が赤ちゃんを守っている、育てているという自覚を持つことができ、産後うつの予防にもつながります。

・愛着形成の促進
肌と肌の触れ合いにより、母親としての意識が高まり、育児の初期段階での不安が和らぎます。

・出産体験の満足度が高まる
出産後すぐの接触は感動体験となり、母としてのスタートを支えてくれる重要な瞬間になります。

STSの方法と基本ステップ

1)出生直後、必要最低限の処置(乾燥、吸引、Apgar評価など)を行う

2)新生児を裸のまま母親の素肌にうつ伏せで密着させる

3)背中にタオルなどをかけて保温し、顔が埋もれないよう姿勢を調整

4)助産師が呼吸、色調、姿勢などを観察しつつ、最低でも30分、できれば1時間はそのまま接触を継続する

5)可能であれば出産直後から中断せずに、最初の授乳まで持っていく

6)継続時間は上限を 2 時間以内とし、児が睡眠したり、母親が傾眠状態となった時点で終了する。

STSの適応と注意点

<適応のある母子>

・正期産児(37週0日〜41週6日)

・出生直後に蘇生処置を必要としない

・Apgarスコアが8点以上で、呼吸や循環が安定している

・母親のバイタルが安定していて、意識障害や大量出血がない

・母親が実施に同意し、理解している

<適応外のケース>

・低出生体重児や新生児仮死、呼吸障害、蘇生が必要な新生児

・重度の早産児で体温保持が困難な場合(NICU搬送を優先)

・母親に意識障害、ショック状態、全身麻酔の影響、疲労困憊、傾眠傾向がある場合

・感染症(例:重症の新型コロナウイルス感染症など)による隔離が必要な場合

・医師、助産師、看護師が不適切と判断する場合


STSの実践にあたり重要なのは、母子ともに状態が安定していることです。すべての母子に実施されるべきケアではありますが、安全性を第一に考えた適応の判断が必要です。

助産師の観察ポイント

出生直後の新生児は、胎内から胎外の生活に急激に適応する時期であり、母体も出産を終えたばかりの状態です。双方とも全身状態が急変するリスクは十分にあるため、STSを実施ししているからといって、決して母子だけにしてはいけません。安全にSTSを実施するためには、赤ちゃんと母親がリラックスして触れ合える環境を提供しつつ、的確な観察と管理をすることが求められます。

<新生児の観察項目>

・呼吸状態(陥没呼吸、無呼吸、喘鳴などがないか)

・チアノーゼや顔色の異常

・活動性・筋緊張・反応性

・児の顔は横に向いているか(うつ伏せ時に顔が埋もれ鼻腔閉塞を起こしていないか)

・体温(保温ができているか)

<母親側の観察>

・出血量・意識レベル・バイタルが安定しているか

・疲労や痛みの訴えはないか

・姿勢が安定しているか(赤ちゃんをしっかり支えられるか)

・傾眠傾向ではないか

・実施中の母の行動


<環境整備>

・室温を適切に保つ(26~28℃前後)

・赤ちゃんの背中は乾いた温かいタオルでしっかり包む

・周囲の音や光を調整し、落ち着いた環境をつくる


以上の観察項目に注意して、STSを実施することが必要になります。STSの実施においてはNCPRの取得者がいる、施設で基準やルールを定める、STS実施中の記録をすることにより安全に実施することができるでしょう。また、事前にバースプランでSTSの意義目的を説明し、同意を得ていればスムーズに介入することが可能です。

出生直後にSTSが実施できない場合

前述したように、全ての出産においてSTSのケアが可能になるわけではありません。STSの適応外になった場合でも、同様のメリットが得られる方法もあります。

<NICUの赤ちゃんのSTS>

重症の新生児や早産児などNICUに入院する赤ちゃんは、STSを実施できず一時的に母子分離を余儀なくされることが多いです。STSは「出生直後にできるだけ早く、継続的に母子が接触すること」を重視していますが、「カンガルーケア」は、出生直後に限らず家族が積極的に赤ちゃんと触れ合う継続的なケアを指し、STSと同様のメリットが得られます。赤ちゃんの状態が落ち着いてきたタイミングでカンガルーケアを行い、赤ちゃんと家族の絆を深めることが可能です。


NICUでのメリット

・心拍・呼吸・体温の安定が得られる

・スキンシップにより、赤ちゃんのストレスホルモンが減少する

・授乳行動や体重増加に良い影響がある

・母親や父親の不安が軽減し、育児意識の向上に寄与する


<父親によるSTS>

母親が出産後すぐに休息を要する場合や、帝王切開後などすぐにはSTSができない場合、父親が赤ちゃんを胸に抱くSTSも有効です。父親やパートナーが同席している場合は、STSの意味や効果を説明し伝えることで、育児への巻き込みもスムーズになります。


父親のSTSのメリット

・赤ちゃんの体温や呼吸が安定する

・父親の育児意識が高まる

・家族としての絆が早期に形成される

・母親が安心して回復に専念できる



STSは母子にとって最初の愛着形成の場であると同時に、赤ちゃんの命を守り、母乳育児を支え、母親としてのスタートを切るための、大切な一歩です。たった数十分の時間ですが、母子に与える影響は驚くほど大きいです。生まれて最初に感じる人のぬくもりが、安全で、心地よい時間にできるよう、STSのメリットと実践方法をしっかり理解して、サポートできるようにしていきましょう。

参考文献

「早期母子接触」実施の留意点日本助産師会

「早期母子接触」実施の留意点 - 日本周産期・新生児医学会

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