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2024
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分娩期

帝王切開専門助産師が解説!緊急帝王切開のママにできること

  • 助産師の声かけ
  • 帝王切開の受け止め
  • バースレビュー
SUMMARY
この記事でわかること
緊急帝王切開は、予定帝王切開の妊婦さんの手術が早まるケースと、経膣分娩を予定していた妊婦さんが帝王切開になる2通りあります。現在の日本では5人に1人が帝王切開、そのうちの6割は緊急帝王切開で出産しているという報告が出ています。しかし、緊急帝王切開をしたお母さんの中で、妊娠中から自分が帝王切開で出産すると予測できていた人はとても限られていると思います。そのようなお母さんや家族に寄り添うために、助産師ができることをまとめていきます。

 今回は、帝王切開カウンセラーの細田恭子さんと、帝王切開専門助産師として活動されている助産師の谷口和代さんと一緒に、緊急帝王切開における助産師の役割について考えていきたいと思います。

 細田さんはご自身が2回の流産と3回の帝王切開を経験され、帝王切開やいのちのお話についての活動をされています。谷口さんは帝王切開を2回経験され、現在も現役助産師として帝王切開専門助産師として助産院を開業されています。

緊急帝王切開が決まった時のお母さんのケア

 緊急帝王切開が決定すると、助産師は必要な処置や準備など複数の業務があります。緊急度によっては、たった数分間のうちに全てこなさなければならないことも多いです。そしてその間にも、お母さんを一人にしないケアが必要です。緊急帝王切開が決定した時のケアやお母さんへの関わりについて、谷口さんはこのように話します。

 『私自身の出産で緊急帝王切開が決まった時に、「まさか自分が…」と思ったし、気づいたら手術台の上にいたんです。助産師として緊急帝王切開の流れはわかっているはずなのに、そのぐらい一瞬に感じました。その時の心境は「気持ちを分娩室に置いたまま体だけが手術室にいた」と表現するんですが、帝王切開を経験したお母さんたちからすごく共感していただけるんです。これから赤ちゃんを迎えるお母さんが、気持ちを分娩室に置き忘れたままでは、赤ちゃんの誕生を受け止められないですよね。全てのお母さんに、赤ちゃんが生まれる瞬間を感じてほしい。そのために分娩室で助産師がお母さんに寄り添うことがすごく大事だと思いました。必要な処置や準備があることはわかっていますが、他の人に依頼できるなら、

 少しでも長くお母さんのそばにいてほしいし、声かけは必要ないからただ手を握っていてそばにいてほしい。手術が決まるとお母さんは緊張で身体が冷たくなるんです。その時に、人の温もりがあるとすごく安心します。

 できるだけ極力その場を離れないこと、可能であればお母さんの気持ちに寄り添う人がいてほしいです。どうしても離れなければいけない時は「今⚪︎⚪︎をしてくるから離れるけどまた必ず戻ってくるから」と伝えてほしい。この後の状況について伝えることで安心感を感じられます。』

じょさんしnavi柏村

緊急帝王切開が決定した時に「なんて声をかけよう」と言葉を探してしまいます。緊急帝王切開が決定した時、声はかけるべきでしょうか。

谷口

助産師って沈黙が苦手な生き物なので、その場の空気を良くしようと言葉をつないでしまいますよね。でも、お母さんにとってはフォローされている気持ちになってしまうんです。下手にフォローをしようとするよりも、お母さんに触れてあげることが大事です。

細田

手術中も同じですよね。周りが白い壁、聞こえるのは金属の音だけ、自分は上半身もはだけて寒さがある状態なので、すごく不安な状態なんです。その中で人の手の温もりやトントンとさすってくれるタッチングがあるだけですごく安心します。ただ寄り添ってくれる人がいるだけでいいんです。

細田

逆に、手術前や手術中に手を握ってくれていることを、当たり前だと思っているお母さんもいるんですね。そういうお母さんには、手を握ってくれている時間って医療者としての仕事ができないですよね。お母さんに寄り添うための人をつけてくれた、そういう帝王切開のお母さんの気持ちをわかってくれる施設で産めたんだよ、と当事者のお母さんたちに伝えるようにしています。

帝王切開中やバースレビューでのお母さんへの声かけ

じょさんしnavi柏村

帝王切開で赤ちゃんと面会した後、赤ちゃんは先におあずかりしてお母さんだけ手術室にいる時間がありますよね。意識がハッキリしている状態で、ボーっと天井をみているお母さんがいらっしゃって、その時にも「何か声をかけなきゃ」って思ってしまっている自分がいます。その時にも声かけは必要なのでしょうか。

細田

私がお産の振り返りの時によく伝えるのは「沈黙は海の底に宝物を取りに行っている時間」で、お母さんが自分の気持ちを整理する時間はすごく大切なんです。お母さんによって違うと思いますが、もしかすると手術台で一点を見つめていても今の時間をたっぷり味わっているかもしれません。そこで「頑張ったね、頑張ったね」と言う必要はないですよね。だからそのようなお母さんを目にしたら、「他に何か望むことがあるか」と聞いてもらえるといいと思います。そしてその時に、励ますとかポジティブになってもらう必要はないです。

じょさんしnavi柏村

お母さん自身に自分の言葉で話してもらうことが大事なんですね。私は特にバースレビューの時は、間違いを訂正するようなイメージをもっていましたが、まずはお母さん自身の言葉を聞いて、間違いだけを訂正するだけでいいんですね。

谷口

そうですね。バースレビューで帝王切開を受け入れられないお母さんが「私のせいで帝王切開になった」とかすごく自分を責めていることとかありますよね。「自分を責める必要はないんだよ」と伝えてあげないと、その気持ちを引きずったまま育児がスタートしてしまいます。病院でのバースレビューのメリットは、自分を責めている気持ちをその場で伝えられる人にとっては、助産師から訂正してあげられるので、退院後の育児に直結していくと思います。反対に、話したくない人や沈黙している方は、自分の言葉が出るまで無理に話さなくていいと思うんです。無理に出てきた言葉はその方の本心じゃないので、自分の言葉を待っていただいた方が良いと思います。

医療者の何気ない一言で傷ついてしまったお母さんへの声かけ

じょさんしnavi柏村

医療者からの一言をお母さんがずっと覚えていることもありますよね。例えば「残念だったね」「頑張ったけどしょうがなかったね」という言葉で傷ついているお母さんもいます。そのような医療者の言葉に対して、お産に関わっていない助産師ができることはなんでしょうか。

細田

まずは、どうしてそういう言葉が出てしまったかを医療者の間で考えてほしいです。無事に抱っこできているのに「残念だったね」という言葉が出てしまう助産師さんの意識が変わってほしいです。「経膣分娩するために頑張っていたのに、できなかったから残念だったね」という前置きを飛ばしてしまうので、「私は残念な出産だった」と素直に受け取ってしまうんです。経膣分娩ありきで言葉が出されているということを考え直してほしいです。

医療者の一言で傷ついているお母さんへの声かけ

じょさんしnavi柏村

医療者も悪気はないんですよね。本当に思ったことを伝えているんですが、お母さんにとっては悲しい言葉、心にひっかかる言葉だったりしてしまうんですよね。そのようなケースをゼロにはできないと思うんです。

 そんな時は、病院以外でお二人のように活動されている方もいらっしゃいますよね。産後ケアなどで関わる助産師が時間が経ってから医療者の「こういうことがひっかかりました」と言われた時に、実際それに対してどのようにアプローチしていけばいいか難しいです。その言葉をかけたスタッフを悪者にしたいわけじゃないので、すごく迷います。嫌な思いをしたお母さんへのアプローチの仕方で心がけていることはありますか。

細田

私は医療者じゃないので一緒に怒ります(笑)。でも医療者同士なら対応は変わりますよね。

谷口

私が実際にバースレビューをした時の話なんですが、逆子ちゃんのお母さんが32週くらいで妊婦健診に行った時に、助産師から「あと1ヶ月が勝負だからね」と言われたんです。そのお母さんは経膣分娩したいって、すごく1ヶ月間努力したんですね。それでも逆子ちゃんは治らなかった。そうすると「1ヶ月が勝負だからね」という言葉に対し、お母さん自身が「勝負に負けてしまった」ことになるんですよね。出産は勝負じゃないんです。そこで逆子ちゃんが戻れば経膣分娩に向かうので、お母さんにとっては心の傷にならないかもしれませんが、逆子が戻らなかったことによって「こんなに頑張ったのに出産前から勝負に負けてしまった」と思われる方がいらっしゃるんです。そういう場合には、そのお母さんが頑張ってきたことを一緒に認めてあげることが大切です。妊婦健診で助産師が話を聞く時間を取れているかというと、なかなか難しいですが、それだけ努力してきたんだから自分に自信を持ちましょう、とお話をしたりするだけでも違うと思います。

 私は助産師さんへ話をする機会もあるのですが、助産師自身がお母さんの気持ちを知らないといけないんですね。「1ヶ月が勝負」という言葉は、助産師自身が「経膣分娩になったらいいな」という思いがあると思うんです。頭位になって経膣分娩できることが「勝ち」なのであれば、やはり経膣分娩ありきなのかなって思ってしまいますよね。助産師にも、そんな言葉をかけられて悩んでいるお母さんがいるんだよということと、そのお母さんのその後についてを知ってほしいです。

じょさんしnavi柏村

 私も1人すごく印象に残っている患者さんがいます。経膣分娩への憧れがあるお母さんで、でも妊娠初期からずっと逆子ちゃんだったんです。鍼とか外回転術とかを試したけれど変わらず、手術直前の胎位確認をするエコーでも逆子で、そのお母さんは手術を受け入れられなかったんです。経膣分娩に憧れをもっている、でもそれが叶わないお母さんへどのような関わりが必要でしょうか。

細田

自分を認められないことってありますよね。「出産頑張ったね」といっても「麻酔かけただけだし頑張っていない」と話すお母さんもいます。私は、帝王切開のお母さんは決断力がある、忍耐力がある、ゆだね上手と表現しています。だってお腹を切ることをゆだねるってすごい決断ですよね。

じょさんしnavi柏村

決断力があるという視点は今までなかったです…!忍耐力・ゆだね上手・決断力、これは助産師全員に知ってほしいキーワードですね。そして、お母さん自身が自分に決断力あるって、なかなか自分で気づきにくいですよね。

細田

そうなんです、そしてその決断は赤ちゃんを守るという母としての決断なんです。

じょさんしnavi柏村

私はよく「赤ちゃんが教えてくれたんですね、サインを出してくれたんですね」という声かけをするのですが、お母さんが決断したという切り口で話はできていなかったです。

細田

何も頑張れなかったというお母さんに対しては、まずはお腹を切るってすごいこと、固定されて何もできない状態でお任せします、と言える強さはその後の育児にも関わります。人に助けを求められることは大事なので、まずはそこからできているよと伝えてあげてほしいです。

 予定帝王切開についての話も出てきましたが、帝王切開を受け入れられないという点では予定であろうと緊急であろうと変わりません。お母さんが自ら帝王切開を選択する海外とは異なり、日本では帝王切開への抵抗感が、助産師にとってもお母さんや家族にとっても、根深くあるように感じます。まずは医療者、特にお母さんと関わる時間の長い助産師から、帝王切開へのイメージを払拭させる必要があります。助産師の一言で、産前産後のお母さんの気持ちや出産への受け止めは大きく変わります。今後も助産師のみなさんの声かけや関わりが、全てのお母さんが自分の出産を満足できる経験にするための大切な一歩になることを期待しています。

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