今回は、帝王切開カウンセラーの細田恭子さんと、帝王切開専門助産師として活動されている助産師の谷口和代さんと一緒に、帝王切開でのバースプランの役割について考えていきたいと思います。
細田さんはご自身が2回の流産と3回の帝王切開を経験され、帝王切開やいのちのお話についての活動をされています。谷口さんは帝王切開を2回経験され、現在も現役助産師として帝王切開専門助産師として助産院を開業されています。
まずはじめに、帝王切開のバースプランについての在り方について考えていきます。バースプランを導入している施設であっても、経膣分娩予定の人にしか行っていなかったり、帝王切開用のバースプランをたててもらっていない施設が多いです。しかし、バースプランは先述の通り、妊婦さんの希望するお産について計画を立ててもらうこと。つまり本来の目的に沿って考えると、出産方法に関わらずバースプランを考えてもらうべきです。多くの施設で帝王切開用のバースプランをたてない理由、それは施設や助産師の古い認識違いのせいでしょう。現在の日本では4人に1人が帝王切開、10人に1人は緊急帝王切開という時代です。これだけ帝王切開率が上昇している現在、出産を控えた妊婦さんが自分だけの満足のいくお産をしてもらうために必要なのではないでしょうか。
谷口
お母さんにとって帝王切開でも経膣分娩でも赤ちゃんの誕生を迎える思いは一緒なので、妊婦さん全員が帝王切開用のバースプランを書いた方がいいです。緊急で帝王切開になるお母さん方は、まさか自分がと想定外のことが多いですよね。妊婦さん全員が帝王切開のバースプランを作ることで、帝王切開の知識を勉強することに繋がります。そうすると自然と妊娠中から帝王切開に触れる大事な機会になります。ぜひ経膣分娩と帝王切開に分けてどちらも作ってもらいたいです。
じょさんしnavi柏村
予定帝王切開のお母さんの中でも、前回帝王切開で確実に帝王切開になるお母さんと、逆子ちゃんで帝王切開になるか経膣分娩になるかわからないお母さんがいます。後者の妊婦さんに説明する時に、伝え方が難しいなと思っていたので、伝え方のポイント等があれば教えていただきたいです。
細田
どんな出産方法でも赤ちゃんを迎えることは幸せな時間ですよね。私はよく結婚式に例えるんです。結婚式という幸せな時間を計画する時は「あれしたいね、これしたいね」と夫婦で考えますよね。出産も同じで、幸せな未来を作るために考えるプランです。経膣分娩だから必要、帝王切開だから不要ではなく、出産は2種類の方法しかないので、両方のプランを幸せのために考えておくことが大切です。
じょさんしnavi柏村
前回は緊急帝王切開で、今回は予定帝王切開です、という方にとっては、出産の流れが全く違いますよね。緊急帝王切開だとできないことってすごく多いし、緊急だったからお母さん自身も流れを覚えていない。そういうお母さんへバースプランを説明する時に心がけていることはありますか。
谷口
お母さん方から「前回の出産でバースプランを叶えられなかった」と発言があったら、具体的にどんなことが嫌だったのか、どこがわからなかったのかを聞けるといいと思います。助産師から「前回も帝王切開だったからわかりますよね」と聞いてしまうと、お母さん方は「わからない」と言えなくなってしまいます。だから「わからないことはなんでも聞く、それもバースプランの一つですよ」と伝えてください。それだけでお母さん方も、疑問を表現しやすくなります。
じょさんしnavi柏村
前回帝王切開の方で、痛みとか怖いとか、そういうマイナスの感情だけが残ってしまっている方もいますよね。今回の帝王切開に向けて、「やっぱり怖いです」「緊張して眠れなかったです」とおっしゃる方もいらっしゃいました。そこに共感することしかできていなくて、どんな声かけがお母さんの安心につながるのか悩みます。
谷口
私も予定帝王切開を経験しているので、前日入院して、怖くて眠れなかったんですよね。また手術台で麻酔の体位になるんだ、とか術後痛いんだよな、とか。
人によって「怖い」の方向性も様々なんです。麻酔なのか、手術中なのか、術後の痛みなのか。そこを具体的に聞きだせると助産師は具体的に言葉で説明できるので、お母さんの不安を少しでも減らすお手伝いができると思います。特に前回の記憶にあるネガティブな感情は、不安や恐怖が倍増して記憶されていると思うので、少しでも気持ちを楽に手術を迎えられたらいいのかなと思います。
細田
一人じゃないと感じてもらうことも大事だと思います。助産師さんが忙しそうだから申し訳ないと思っているお母さんも多いので、自分の話を聞いてくれたってことだけでもホッとします。それから、お母さん自身で何が怖いのかを表出すること、人に共感してもらえるだけでも少し違うと思います。
助産師さんは忙しくてゆっくり聞いている時間はないかもしれないけど、「何分後にまたくるね」とか一人ぼっちにしない、安心させられる言葉も大事だと思います。
次に母親学級の在り方についてお二人の考えをお聞きしました。母親学級は最近は産院だけではなく、地域や企業によっても開催されていますよね。その中で、出産の流れや陣痛の乗り越え方について説明があることは多いですが、帝王切開について説明がある母親学級は多くはないと思います。
じょさんしnavi柏村
母親学級で出産前に妊婦さんへ伝えるべきことがあれば教えてください。
細田
未だに母親学級で帝王切開のことを話さないことが多いですよね。お腹の切り方、麻酔のこと、少なくともこれだけは、ということもまだあまり伝えられていないです。どこの病院であっても地域の母親学級であっても、同じように帝王切開について最低限のことは伝えてほしいです。
谷口さんは実際に母親学級でみる妊婦さんの反応をこのように語っています。
母親学級の中で帝王切開の話を始めると、急にメモをしている手帳をパタっと閉じる音が聞こえてきます。自分は帝王切開にならないと思っている方たちがたくさんいるということです。しかし10人に1人は緊急帝王切開になる時代なので、妊婦さんにもご家族にも決して人ごとではないということを知ってもらいたいです。
ただし母親学級は、実際にはすごく膨大な量を伝えなければいけないです。陣痛や破水、入院のタイミングについて伝えるのは必須です。それに加えて、施設の案内や入院の持ち物など、それらを伝えるだけでもかなりの時間を締めます。
谷口さんは実際に、①麻酔はどこからどのように入れるのか②麻酔を入れたら赤ちゃんの声が聞こえるか③麻酔を入れるとどんな感覚になるのか、意識はあるのか④傷の向きは縦か横か⑤赤ちゃんが生まれるまでにかかる時間と、その後手術が終わるまでにかかる時間など、具体的な内容を伝えているそうです。長々と手術の全体像を伝えるよりも、記憶に残るような要所要所の内容を伝えることがポイントです。緊急帝王切開になった時に、産婦さんが先の見えない不安の中で何か1つでも思い出せることで、小さな安心に繋がると話されました。
出産はどんな人にもリスクがあり、最後まで何が起きるかわかりません。経膣分娩予定でも緊急の帝王切開になり得るし、選択的帝王切開予定でも緊急になることはあります。どんな妊娠経過の妊婦さんでも帝王切開になる可能性があり、妊婦さん自身にもご家族にも自覚してもらう必要があります。妊婦さん全員が帝王切開のバースプランを記入したり、母親学級や産前の助産師外来などを通して、帝王切開の基礎知識を知ってもらうことが不可欠になってきました。また助産師を含めた医療従事者も「帝王切開になってしまう・なってしまった」という認識を改め、もっと帝王切開について積極的に妊婦さんへ話をしていくべきです。