
胎児心拍が一時的に基線(ベースライン)より低下する現象を「一過性徐脈」と呼びます。徐脈を見つけたら3つの判読ポイントがあります。1つ目が子宮収縮とのタイミング、2つ目が下降の形、3つ目が持続時間や回復の速さを確認することです。この3つを意識するだけで、ED・VD・PDの区別がしやすくなります。
早発一過性徐脈は、子宮収縮の開始と「同時」に心拍が下降し、収縮のピークで最も低くなり、収縮が終わるとともに回復するパターンを示します。波形はなだらかなカーブを描き、収縮とほぼ完全にシンクロしているのが特徴です。原因は胎児頭部の圧迫による迷走神経反射であり、酸素供給の低下を示すものではありません。そのため特別な介入を必要としないことがほとんどです。ただし初産婦で児頭が骨盤に強く圧入しているときなどに子宮収縮のたびに頻繁に出現することがあり、パターンの理解ができていないと不安を感じやすいかもしれません。「収縮と心拍の谷がぴったり重なっているかどうか」をまず確認する癖をつけ緊急度の高いVD、PDと瞬時に見分けられるようにしておきましょう。
変動一過性徐脈は、突然心拍がストンと下がり、V字型やU字型、時にはW字型を示すこともあります。下降と回復が急激で、子宮収縮に一致するとは限らないのが特徴です。原因は臍帯の圧迫による一時的な血流途絶であり、臍帯巻絡や臍帯下垂、臍帯脱出、羊水過少、臍帯真結節など、いわゆる「臍帯因子」が背景に存在することが多くあります。VDが軽度で一過性であれば経過観察が可能ですが、深く長く繰り返す場合には胎児が低酸素に陥る危険があります。VDは波形の形が毎回違い、いつ出現するかは予測不能であることが多いです。「突然のV字型=臍帯圧迫を疑う」とシンプルに覚えておきましょう。
遷延一過性徐脈は、徐脈が「2分以上10分未満続く」場合を指します。波形はなだらかに下降することもありますが、とにかく心拍が長時間にわたって回復せず、基線まで戻るのが遅いのが特徴です。原因は強い臍帯圧迫や臍帯脱出、母体低血圧、子宮過収縮、さらには胎盤機能不全などが挙げられます。持続する時間が長ければ長いほど胎児にとって危険な状態です。「徐脈が2分以上続いたらPD」と覚えておくと判断の基準が明確になりますが2分以上持続するまで待つ必要はないため、緩やかな徐脈がモニターに出現したことに気が付いた時点で産婦さんの側に駆けつけ、徐脈への対処をなるべく早く開始しましょう。

同じ徐脈でも、軽度か高度かを見極めることは非常に重要です。軽度の場合は心拍の下降が15〜30bpm程度と浅く、持続時間も60秒未満で、基線細変動が保たれていることが多いです。この場合、胎児の予後は比較的良好で、経過観察で対応できることがほとんどです。しかし一方で高度の徐脈は、下降が30〜60bpm以上と深く、持続も60秒以上と長く、収縮後もなかなか回復しません。さらに基線細変動が乏しくなっている場合は、胎児の低酸素状態が進行している可能性があり、迅速な対応が必要です。「浅く短ければ軽度、深く長ければ高度」という大まかな判断基準をまず身につけることが大切です。


種類 | 軽度 | 高度 |
遅発一過性徐脈 | 基線からの低下が15bpm未満 | 基線からの低下が15bpm以上 |
変動一過性徐脈 | 最下点 ≥80bpm、または70〜80bpmで60秒未満 | 最下点<70bpmで30秒以上、または70〜80bpmで60秒以上 |
遷延一過性徐脈 | 最下点 ≥80bpm | 最下点<80bpm |
EDの場合は基本的に生理的な現象であり、特別な介入は必要ありません。観察を継続し、他の異常所見がないか注意深く見守れば十分です。
VDが繰り返し出現した場合には、臍帯圧迫を軽減させるための工夫が必要になります。母体を側臥位にして子宮による臍帯圧迫を和らげたり、羊水過少が疑われる場合には医師と相談しながら羊水注入を検討したりすることもあります。また、母体への酸素投与や輸液による循環改善も有効です。
PDが出現した場合には、迅速な対応が求められます。まず母体の体位を変換して臍帯圧迫を軽減し、酸素を投与して胎児への酸素供給を最大限に確保します。母体に低血圧が見られる場合には輸液を行い、場合によっては昇圧剤の投与を検討する必要もあります。子宮過収縮が原因と考えられるときには、子宮収縮抑制薬を使用して収縮の間隔をあける対応もとられます。これらの処置を行いながらも徐脈が改善しない場合や胎児心拍パターンがさらに悪化する場合には、医師に速やかに報告し、分娩の方法を含めた緊急の対応を検討することになります。
CTGモニター判読のポイントは、「収縮とのタイミング」「下降の形」「持続時間」をしっかり押さえることにあります。
EDは収縮と同時に生じる生理的な現象であり、基本的には心配のないパターンです。VDは臍帯圧迫による突然の下降が特徴であり、繰り返す場合には対応が必要です。PDは2分以上持続する長い徐脈であり、胎児低酸素の危険信号として迅速な介入が求められます。
臨床現場では、EDであれば経過観察、VDが頻発するなら体位変換や酸素投与、PDが出現すれば緊急対応という流れをイメージしておくと実践しやすいでしょう。基本的な判読の枠組みを理解し、現場で少しずつ経験を積みながら判読の精度を向上していきましょう。
参考文献
公益社団法人 日本産婦人科医会 中井教授のCTGマイスター
病気がみえる vol.10 産科
画像:公益社団法人 日本産婦人科医会 中井教授のCTGマイスター スタートアップ7より引用





.png?w=320&q=80&auto=compress)