【分娩介助の基本】初期診断に必要な情報収集15項目|助産学生・新人助産師は必見
- 分娩介助の基本
- 助産診断
- 情報収集項目
助産師は分娩時には産婦と胎児の2つの命を預かりながら、出産のサポートやケアを行うようになります。そのため、安全に分娩が終えられるように、常に産婦と胎児の状態を判断していかなければなりません。そのためには最初の初期診断が重要です。産婦さんが入院してきたら、分娩が開始しているのか、果たしてこれから正常な分娩進行がみられるのか、分娩進行を妨げたり、逸脱してしまうリスクはないか、収集した情報をもとにアセスメントします。初期診断で的確に産婦さんの全体像を捉え、分娩の進行や変化があれば、その情報をもとに修正をしていきます。助産学生や新人助産師であれば、指導助産師や先輩助産師から初期診断ができているかまずはじめに確認される内容です。初期診断なくては、適切なケアが行えません。分娩期の初期診断を確実なものにし、リスク判断もとれるようにしていきましょう。
1.基本情報
1)名前
基本中の基本ですが、産婦さんの名前はフルネームで確認します。出生証明書は戸籍で登録された名前での記入になります。常用漢字ではない字体の場合もあるので、確認しておきましょう。
2)年齢
年齢は分娩の3要素全てに影響があります。若年妊娠(19歳未満)高齢妊娠(初産が35歳以上、経産婦では40歳)はハイリスクです。若年も高齢も合併症のリスクや、新生児管理を必要とするリスクが大きくなります。
3)身長、非妊娠時体重、BMI、妊娠中の体重増加量
母体の体型によって順調な分娩進行を妨げることがあり、CPDやFGR、回旋異常、微弱陣痛、軟産道強靭、子癇出血などのリスクがあります。HDPなどの合併症を引き起こすこともあります。
4)既往歴や現病歴の有無
ぜんそくやアレルギー、心疾患などの有無によって分娩前後で使用できない薬剤があるので確認が必要です。疾患によっては、分娩方法を無痛分娩や帝王切開にすることもあります。HDPや糖尿病などでは、分娩時に症状の悪化がみられないかを観察していく必要があります。初期検査で行われる子宮頸がんの結果も確認しましょう。
他にも疾患、治療薬によっては児への影響もあるため、出生後の観察において施設での決まり、プロトコールに当てはまるものがないかを前もってチェックしましょう。
内服治療をしている方は内服薬によって授乳が出来ないこともあるので、必要があれば授乳の方針も決定しなければいけません。
パンダ先輩
分娩進行中も内服を継続しなければいけない薬剤もあるよね。内服薬の持参についても確認しようね!
5)バイタルサイン
妊婦健診と著変がないかを確認しましょう。発熱、感冒症状などがみられれば、家族の健康状態も聴取し、感染症などによるものか、母体の体に何が起こっているのか考慮する必要があります。また、その後の母体や新生児管理にも関わってきます。血圧も妊娠経過中は正常でも分娩が進行してくると、発作時に高血圧を起こすこともあります。初期診断で産婦の正常なバイタルサインを知っておくことで、産婦の変化に気付き早めに分娩方針を検討することができます。
6)妊娠週数
胎児の予備能力、成熟度、胎盤機能に影響があります。早産の場合の管理や過期産の場合のリスクに備えて対応を整えます。
7)妊娠、分娩歴
初産婦か経産婦かで分娩進行速度は変わります。経産婦では前回の分娩経過も判断材料にしますが、前回の出産から期間があいていると前回の分娩とは異なる経過をたどることもあります。反対に、前回の出産から1年以内での妊娠は体が出産のダメージから回復していない状態での妊娠になるので、母体や胎児の様々なリスクが高まることが報告されています。流産や死産なども確認し、産婦の背景に配慮したケアを行えることも大切です。
8)妊娠方法
どのような経緯で今回の妊娠に至ったかを把握しましょう。不妊治療も様々な方法があります。近年はIVF-ET(HRC-FET)は自然周期の凍結胚移植に比べて癒着胎盤の発症リスクが上昇すると報告されています。
9)妊娠経過の異常の有無
切迫早産、子宮頸管無力症、HDP、GDM、FGR、低置・前置胎盤 羊水過多・過少など妊娠経過を通して異常がないかを確認し、分娩時への影響を考慮しましょう。ガイドラインでの対応や、施設での管理方法を確認しておきましょう。
10)血液データ、尿検査
血液型、クームス、貧血、凝固異常、血小板減少、炎症反応などを確認しましょう。血液型は輸血が必要な場合に必須項目です。凝固異常や血小板減少では手術時に硬膜外麻酔や脊椎麻酔が行えなかったり、分娩時に出血が増えるリスクがあります。検診での尿検査の結果も参考に腎機能の評価を行い、緊急高血圧症など母体の急変に注意しておく必要があります。
11)膣培養データと感染症の有無
HBV、HCV、HIV、GBS、ワ氏、ATL、風疹、クラミジア、ヘルペスウイルス、インフルエンザなどです。母児への影響はもちろん、自分の身を守るためにも感染症の確認は必須です。ヘルペスウイルスは分娩方法が帝王切開になることがあります。最近では、初期検査で梅毒陰性でも後期に症状が出る人もいるので、2回検査を行い、確認することもあります。GBS陽性の場合は、産道感染によって胎児が敗血症や肺炎を発症する場合があるため、感染予防のために母体へのペニシリン投与が分娩開始時から必要になります。膣培では、GBSだけでなくMRSAなど他の病原体が検出されていないかも確認し対策をとりましょう。その他感染症においてもガイドラインでの対応と施設のマニュアルの確認が必須です。
2.分娩の4要素
1)娩出力
産道を通して、娩出物を母体外に娩出させる力です。陣痛と腹圧からなります。
①陣痛
陣痛は、子宮筋の収縮により胎児を押し出し、娩出力の中心的な役割を果たしています。陣痛周期、陣痛発作時間、陣痛間欠時間を観察します。進行に伴って痛みの部位や強さも異なってきます。触診でも確認し、有効陣痛がきているか前駆陣痛か微弱陣痛なのか判断しましょう。陣痛を有効にするためには母体の体力・エネルギーや休息が必要になってくるので、食事や水分がとれるか、間歇時には力が抜けているかも観察しましょう。
②腹圧
陣痛が強くなると不随意的に腹圧がかかり、児の娩出に大きな役割を果たします。これを共圧陣痛といいます。肛門圧迫、抵抗の有無や怒責感があるかを確認しましょう。入院時にすでにコントロールできないほど力が入っている場合は、すぐに分娩になる可能性大です。
2)産道
産道は骨盤とその関節から構成される骨産道と子宮、子宮頸管、膣、会陰の軟部組織からなる軟産道の2つの要素に分けられます。
①骨産道
母体身長が150センチ以下の場合は挟骨盤の可能性があります。また、本人とパートナーの身長差が25センチ以上あるときやBPD10㎝以上、巨大児も骨盤内を通過できるか否かのリスク因子となります。母体身長や推定体重、BPDとを合わせて情報収集し、CPDが疑われる場合は、グースマン・マルチウス撮影にて児頭が通過可能か実測します。経産婦の場合は、前回分娩時の出生体重や分娩方法、吸引圧出の有無も確認するといいでしょう。脊椎・骨盤・股関節疾患がある場合は、開排制限の有無や分娩時の体勢がとれるかを確認しましょう。
②軟産道
胎児の直接の通り道となり、子宮口の熟化と伸展が大事になります。
内診を行い、ビショップスコアで所見を数字化し、熟化を評価しましょう。9点以上は成熟しています。また、フリードマン曲線も参考にどの時期にいるのか当てはめてみましょう。子宮頸管縫縮術後や子宮経管膣部の円錐切除後、前回の分娩時の子宮頸管裂傷瘢痕などは治癒する過程で手術、処置箇所が硬くなり子宮口が伸展、熟化不良となることがあります。また、過度な体重増加がある場合は産道に脂肪が付くことで難産の可能性もあります。
3)娩出物
胎児、および胎盤、臍帯、卵膜、羊水などの付属物を指します。
①胎児
まずは胎児の状態について情報収集します。胎児の体重が標準範囲内か、巨大児、FGRや先天性疾患の有無を確認します。外来でのNST所見やBPSも情報収集し、胎児心拍モニタリングを行って、胎児の予備能力を評価しましょう。次に、胎児が骨盤内に正軸進入しているかの評価をします。子宮口が開大していれば、大泉門・小泉門が触れるか、矢状縫合の方向を確認し、胎勢や回旋の状態を判断しましょう。胎勢や回旋の異常は分娩経過への影響が強く、分娩経過が遷延したりと難産になりやすいです。
②胎盤、臍帯、羊水
破水があれば、破水時間や色・量、炎症の有無、臍帯下垂・脱出の有無を確認し、抗生剤の使用を施設のマニュアルに添って行います。破水をすることで、分娩が一気に進行することもあれば、羊水量の減少により児へのストレスが加わることもあります。また、エコーで臍帯巻絡や結節などの所見がある場合も、NRFSとなるリスクがあります。
胎盤はエコーにおいて石灰化像がみられていないか、エイジングはないか胎盤機能の評価をしましょう。もし、サラサラした出血で量が多い、コアグラがあるなどは常位胎盤早期剥離が疑われ、緊急帝王切開が必要になります。
4)産婦の精神状態
以前は分娩3要素でしたが、母体の精神状態も分娩に必要であると考えられるようになりました。産婦の分娩に対する気持ち、心構え、捉え方も分娩進行に影響します。緊張や不安、恐怖が強いと全身に力が入るため、筋肉が硬直してしまい、子宮口の熟化が進みにくいです。また、緊張などのストレスによって疲労も蓄積しやすく、陣痛が弱くなり分娩が進まないことが多いです。産婦の表情や発言なども注意して観察し、リラックスできるようにサポートしましょう。
3.バースプラン
バースプランには産婦の分娩に対する希望、要望が込められています。不安が強いので、どういう状態か事細かく説明してほしい、陣痛が怖い、ずっとそばにいて欲しい、会陰切開しないで欲しい、カンガルーケアがしたい、産声を録音したい、胎盤が見たいなどそれは多岐に渡ります。産婦と助産師でバースプランを確認し、可能な範囲で希望するケアを行うことができると信頼関係も築きやすく、分娩に対する精神的なサポートにも繋がります。
情報収集すべき内容がたくさんありますが、助産師はこれら全ての情報を統合し、分娩予測を行います。そして、初期診断は最初だけではなく、変化があればその都度診断を修正し、複合的に判断することを繰り返していきます。最初は初期診断に必要な情報を漏れずに収集することや、目の前の産婦さんへのケアに必死になるかもしれません。しかし、初期診断からリスク因子を把握し、起こりうるかもしれない異常を予測することができれば、その異常を回避できるような準備や対応をあらかじめとることができます。母児にかかるリスクや負担を最小限にできるようなケアの提供を出来る限り行い、よりスムーズで安全な分娩が行えるように初期診断の力をつけていきたいですね。
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