
【メーカーに聞いた】同じ「70℃」でも、たどってきた道が違う。調乳の安全を支える象印「STAN. 電動ポット」
退院指導のとき、ママから「お湯はポットとケトル、どちらがいいですか」と聞かれることはありませんか。そんな時みなさんはどう答えていますか。
手軽さならケトル、たくさん使うならポット。そんなふうにお答えして、その場を収めてしまうことはないでしょうか。調乳には70℃以上のお湯を使うこと、これは助産師のほとんどが知っていて、ママにも必ずお伝えしている内容です。けれども「その70℃は、どうやってつくられた70℃なのか」まで踏み込んで考える機会は、助産師学校でも研修でもほとんどありません。
今回お話を伺ったのは、象印マホービンの「STAN.」シリーズの電動ポットです。助産師が毎日ママに伝えている「70℃以上」という数字の根拠を、つくっている側はどう捉えているのかを知りたくて、取材をお願いしました。編集部で製品を2週間ほどお借りして使ったうえで、企画担当の方に伺っています。
本記事を読めば、同じ「70℃」でも意味が変わるという知識と、ポットかケトルかを聞かれたときにママへそのまま話せる指導トークが手に入ります。
【開発の背景】自分が欲しいものをつくる。2019年に生まれた「STAN.」シリーズ
「STAN.」シリーズは2019年に登場した調理家電のシリーズで、電動ポット、IH炊飯ジャー、オーブンレンジなどが同じトーンで揃えられています。お話を伺ったのは、電動ポットと電気ケトルの商品企画を担当されている三嶋さんです。
―子育て世代をターゲットに据えられた理由を教えてください。
「20代から40代の方はデザインの重視度が高めで、年代が上がるほど機能性を重視する傾向がありました。我々はどちらかというと50代、60代の方に強い商品が多かったので、若い方々にもちゃんと受け入れられる商品を出そう、ということでシリーズ化しました。デザインが注目されがちではあるんですけど、我々が得意なのは安心とか安全とか品質の面です。そこを守りながらデザイン性をよくしたのが『STAN.』シリーズになります」(三嶋さん)
市場全体ではポットよりもケトルが伸びている、という前提も、率直に共有してくださいました。それでもポットを一から考え直した理由が、この記事のいちばん大事なところにつながっていきます。
夜中に火傷しながらミルクを冷ました。担当者自身の経験から
「70℃保温」は「STAN.」に限らず、象印の電気ポットほぼ全ラインアップに備わっている機能です。けれども「デザインがオーソドックスなので、せっかく子育て世代のニーズに合う機能なのに、目を向けてもらえないというのがありました」と三嶋さんは振り返ります。
三嶋さんご自身の経験も、そこに重なっていました。
「当時30歳ぐらいで、自分が欲しいものを作ろうと思っていました。私も子どもにミルクをあげる経験があって、当時は自社の電気ケトルしか持っていなくて、夜中に起きてお湯を沸かして、100℃近いお湯でミルクを作ってから人肌まで冷ますんですけど、寝ぼけながら、夜中なので、火傷しながら自分の腕にミルクを垂らして温度の確認をしていました」(三嶋さん)
沸騰を待つ時間、冷めない哺乳びん、冷ましすぎてもう一度温め直すこと。そして頑張って作ったのに飲んでくれないこと。私たちが産後のご家庭で立ち会ってきた場面が、そのまま開発の動機になっていました。

同じ「70℃」でも、たどってきた道が違う
乳児用調製粉乳の調乳には70℃以上のお湯を使うこと。これはWHOとFAOが2007年に公表したガイドラインで示されている考え方で、内閣府食品安全委員会も同じ内容を情報提供しています。背景にあるのは、クロノバクター・サカザキ菌(旧称エンテロバクター・サカザキ)という細菌です。
では、製品に「70℃」と書かれていれば、どれも同じなのでしょうか。
―電気ポットの70℃保温と、電気ケトルの温度調節機能の70℃は、どう違うのでしょうか。
「電気ポットに関しては、一度沸騰させてから70℃に落とす、という機能です。温度設定のできる電気ケトルは、100℃に行く途中の70℃くらいになったら止める、90℃くらいになったら止める、そういうことになっているものが多く、その場合沸騰していないんです」(三嶋さん)
つまり、同じ70℃でも、一度沸騰させてから冷ましたお湯と、沸騰前に加熱を止めたお湯では違いがあります。「安心して使っていただく分には、1回100℃にしている方がいいと思います」と三嶋さんは話します。
また、70℃で加熱を止めるタイプのケトルは、電気ポットの70℃保温とは異なり、その温度を保ち続ける機能ではありません。
「70℃で止まって、その後はどんどん温度が下がっていきます。60℃以下とかになると、また違う菌とかが増殖してしまって、あまり適切ではないです」(三嶋さん)
大切なのは、製品の優劣ではなく、同じ70℃という表示でも、加熱の仕組みや保温機能に違いがあると知っておくことです。
ママたちとお話ししていると、「70℃以上のお湯でミルクを作るんですよね」と、よくご存じだと感じます。私たちが日頃からそうお伝えしてきたからこそですが、ふと振り返ってみると、「その70℃が、どうやって作られたお湯なのか」までは、これまで詳しくお伝えできていなかったかもしれません。育児家電の進化によって、私たちの指導の引き出しにも、また一つ大切な知識が加わったように思います。
【設計のこだわり】ケトルと同じ速さで沸く、1.2Lのポット
「STAN.」の電動ポット(CP-CA12)は容量1.2Lで、一般的な電気ポットより小さく、ケトルに近いサイズ感です。
―容量を1.2Lとされた理由を教えてください。
「容量のサイズ感はケトルに合わせています。ケトルが早く沸くのは電力が高いからなんですけど、これもケトルとほぼ同じ電力の1300Wで沸かすので、沸くスピードとしては、ほぼケトルと同じように使っていただければいいかなと思います。ケトルは傾けないといけないですけど、これはボタンで出るので、使いやすさとしてもいいのかなというところですね」(三嶋さん)
「ポットは一度にたくさん沸かさなければいけない」「一回のお湯を使い切れない」という声は、私たちも産後のご家庭からよく伺います。1.2Lという容量は、その引っかかりに答える設計でもあります。ふたを開けずに残量が分かる赤玉水量計、少量ずつ注げる「ゆっくりカフェドリップ給湯」も備わっており、授乳の合間にカフェインレスのコーヒーで一息つく、という使い方にも向いています。


【安全設計】倒れる前に、プラグが外れる
小さなお子さんがいるご家庭を想定した仕組みも、いくつか取り入れられています。
- マグネットプラグ:足を引っかけたときにプラグが外れ、本体ごと倒れることを防ぎます。「プラグがくっついている状態だったら、電気ポットごとドタンと倒れてしまいます」(三嶋さん)
- 自動給湯ロック:ロックを解除しないとお湯が出ない仕組みです
- 傾斜湯もれ防止・転倒湯もれ防止:傾いたり倒れたりしたときに、お湯がもれにくい構造です
- 空だき防止:水がない状態での加熱を防ぎます
- 報知音オフ:沸とう完了のメロディを消すことができます
赤ちゃんが眠っているご家庭では、ちょっとした音でも気になることがあります。STAN.の電動ポットは、沸とう完了時のブザー音を鳴らすか、消すかを選べるため、ご家庭の状況に合わせて使うことができます。
お手入れの面では、内容器がフッ素加工で、ふたも外して洗えます。

離乳食にも。「ベビーごはん」モードを備えたIH炊飯ジャー
取材の最後に教えていただいたのが、同じ「STAN.」シリーズのIH炊飯ジャー(NW-SB10)です。こちらには「ベビーごはん」というモードと、専用の水位線が用意されています。
「これこそ、私の自分の娘のために、勝手に作ったようなものです。小分けのカップを大人のご飯と一緒に炊飯器に入れる方法があると思うんですけど、作れる量が少なくて、毎回作るのが大変になってきます。これで一気に30食分くらい作って冷凍しておいて、食べる時に温めてもらえれば、すごく楽になるんじゃないかなと思って」(三嶋さん)
小さなカップを大人の炊飯器に入れて炊くのも、もちろん選択肢の一つです。でも、それとはまた別に、赤ちゃん専門のモードでしっかりまとめて炊けるというのが、この炊飯器の魅力だと感じました。
なお、離乳食の進め方は月齢の目安だけで決まるものではありません。赤ちゃんの様子に合わせて進めること、新しい食材は少量から試すこと、アレルゲン表示を必ず確認すること。この3つは、製品の便利さとは切り離さず、いつでも大切にお伝えしていきたいですね 。


現場で使える!助産師からママへ、お湯の温度を伝える指導トーク
場面①:ポットとケトル、どちらがいいか聞かれたとき(妊娠後期〜退院指導)
「退院した日からすぐにミルク作りは始まるから準備しておきたいですよね。手軽さならケトルなんですけど、ミルクをあげる時期だけは、少し見てほしいポイントがあるんです。同じ『70℃』でも、一度沸騰させてから70℃に下げているものと、沸騰させずに70℃で止めているものがあるんです。ミルクを作るなら、沸騰させてから保温してくれるタイプのほうが安心です。おうちの使い方に合うのはどちらか、一緒に考えてみませんか」
場面②:すでに「70℃」をご存じのママへ(産後入院中の調乳指導)
「70℃以上で作る、しっかり覚えていらっしゃってすごいです。ひとつだけ付け足させてください。70℃が大事なのは、粉ミルクの中にいるかもしれない菌を増やさないためなんです。だから、一度しっかり沸騰させているってことが大事になってきます。。お使いの道具がそのタイプかどうか、取扱説明書で一度見てみるといいかもしれません。
場面③:夜間授乳がつらいと話すママへ(1ヶ月健診・産後ケア訪問)
「夜中に起きて、沸かして、冷まして、やっと飲ませられる。あの時間が本当にしんどいんですよね。実は、電気ポットは調乳に使える温度でお湯を保っておけるんです。沸かす時間と冷ます時間が省けるので、少しだけ夜が楽になるかもしれません。もちろん、ご家庭のやり方がいちばんです。もし他の方法で楽にできるところがあるなら、頼ってしまっていいと思いますよ」
まとめ:70℃の意味を知っていることが、私たちの引き出しになる
電動ポットがあれば夜間授乳の大変さがなくなる、というわけではありません。眠れない時期のつらさは、道具で解決できるものではないからです。
それでも「STAN. 電動ポット」は、単に便利な家電ではなく、夜中に火傷しながらミルクを冷ました一人の担当者の経験から生まれた製品でした。そして、同じ「70℃」でも温度のたどり方が違うという知識は、私たちがママに説明できていなかった部分です。
助産師がすすめたものを、ママは信頼して選んでくださいます。だからこそ、その言葉には根拠が必要です。「これがいいですよ」ではなく「ここを見てくださいね」と言えること。知識をアップデートしたうえで、目の前の赤ちゃんとママの状態に合わせてアセスメントし、そのご家庭に合った提案をしていく。それが、私たち助産師の役割だと思います。
編集後記:2週間、自宅で使ってみました
取材前に製品をお借りして、2週間ほど自宅で使いました。朝のコーヒーを入れる際、お湯が沸く早さに驚きました。別の電気ポットを使っている同居の義母とも使い比べ、デザインもおしゃれで我が家のキッチンになじんでいました。
特に印象に残ったのは、70℃のお湯にも違いがあること。ケトルは沸騰させるものだと思い込んでいたので、沸騰前に設定温度に達すると止める電気ケトルがあるのは新たな発見でした。これまでママから「70℃で作ればいいんですよね」と聞かれると「そうですね」と答えていましたが、これからはもう一歩踏み込んで伝えられそうです。
混合授乳やミルク育児が増えてきているからこそ、調乳を指導する助産師としてみなさんの引き出しにも、そっと一つ加えてみませんか。
【「STAN.」をもっと知りたい・購入したい方へ】
デザインと安全設計の両方を大切にしてつくられた「STAN.」シリーズ。詳しく知りたい方は、ぜひ公式サイトをチェックしてみてください。
【参考文献】
- WHO/FAO(2007)『Safe preparation, storage and handling of powdered infant formula: Guidelines』
- 内閣府 食品安全委員会「乳児用調製粉乳(粉ミルク)の調乳に関する情報提供」

【メーカーに聞いた】同じ「70℃」でも、たどってきた道が違う。調乳の安全を支える象印「STAN. 電動ポット」

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