
【助産師の最新知識】腕に埋め込む避妊?知っておきたい避妊インプラントの基本
- 避妊インプラント
① 避妊インプラントとは?
避妊インプラント(Implanon®/Nexplanon®)は、長さ約4cm、直径2mmほどの柔らかいプラスチック製のスティックを、上腕の皮下に挿入する避妊法です。このスティックから有効成分であるエトノゲストレル(第3世代のプロゲスチン)が持続的に放出され、3年間にわたり高い避妊効果を発揮します。
特徴
- 1本の挿入で最長3年の避妊効果
- エストロゲンを含まないため、血栓症リスクが低い
- 授乳中も使用可能(産後6週以降)
- 服薬の手間がないため、コンプライアンスが高い
- 挿入・抜去は局所麻酔で数分で完了
② 避妊のメカニズム
インプラント挿入後24時間以内にホルモンの血中濃度が上昇し、その後はゆるやかに減少しつつも、約90pg/mL前後を維持して避妊効果を保ちます。
1. 排卵の抑制(中枢作用)
- エトノゲストレルが視床下部‐下垂体‐卵巣軸に作用し、GnRH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)の分泌を抑制
- それによりFSH(卵胞刺激ホルモン)とLH(黄体形成ホルモン)が分泌されず、排卵が起こらなくなります
- 血中濃度が90pg/mL以上で、排卵抑制効果が安定するとされています
プロゲステロンとプロゲスチンの違い
項目 | プロゲステロン | プロゲスチン |
種類 | 天然の黄体ホルモン | 合成プロゲスチン |
主な用途 | HRTなど | 避妊・月経困難症・インプラントなど |
特徴 | 短時間作用 | 長時間の安定作用が可能 |
2. 子宮頸管粘液の変化(局所作用)
- ホルモンの作用で子宮頸管粘液が粘性を増し、精子の侵入をブロックします
- この作用は低濃度(約50pg/mL)でも十分効果を発揮するため、排卵抑制がやや弱くなっても避妊効果が持続します
3. 子宮内膜を薄く保つ(着床阻害)
- 長期間にわたるホルモン作用で子宮内膜が菲薄化
- 万が一受精しても着床しにくい状態を保ちます
- 補助的な作用ですが、他のメカニズムと組み合わさることで高い避妊率につながります

③ メリット・デメリット
メリット
- 避妊効果は99.95%以上と非常に高い
- 3年間持続、服薬の必要なし
- 抜去すれば数週間で排卵・妊娠が可能
- エストロゲンを含まないため、血栓リスクや授乳期でも使用可能
デメリット・副作用
- 月経不順・不正出血・無月経が起こりやすい(特に使用初期)
- 体重増加・にきび・気分の変動などのホルモンによる副作用
- 挿入部位の内出血・感染・異物感(まれに移動することも)
- 「見えないこと」への不安感(触診で確認可能)
※副作用には個人差があるため、導入前の丁寧なカウンセリングが重要です。
④ 日本での導入状況と今後の展望
2025年現在、日本では避妊目的でのインプラント(ニクスプラノン®)は未承認です。そのため一部のクリニックなどで輸入や研究段階での使用に限られています。しかし、WHOは避妊インプラントを「最も確実な長期避妊法の一つ」として推奨しており、アメリカ・イギリス・オーストラリアなどでは日常的に使用されています。今後の日本での導入に向け、医療者側の知識と準備が求められる分野です。
⑤ 他の避妊法と比較すると?
比較項目 | 避妊インプラント | ミレーナ(IUS) | 低用量ピル |
有効期間 | 約3年 | 約5年 | 毎日服用 |
エストロゲン | 含まない | 含まない | 含む |
授乳中の使用 | ○(6週~) | ○(8週~) | △(母乳量減少の可能性) |
主な作用 | 排卵抑制・頸管粘液変化 | 子宮内膜菲薄化・頸管粘液変化 | 排卵抑制・周期調整 |
月経への影響 | 不正出血・無月経 | 月経量減少・無月経 | 周期の安定化 |
利用者の負担 | 1回挿入でOK | 同上 | 毎日服用が必要 |
⑥ カウンセリングでの活かし方
避妊インプラントは、若年層を含む幅広い世代にとって有効な選択肢となります。助産師がカウンセリングで提案する際には、以下のポイントを丁寧に伝えることが大切です。
- 飲み忘れが不安な方には適している
→ ピルの継続が難しい方でも安心して使用できます - 性交経験がない女性でも使用可能
→ インプラントは腕に挿入するため、ミレーナのように経腟挿入が不要です - 日常生活への影響が少ない
→ 一度挿入すれば3年間使用でき、学校や仕事との両立がしやすいです - 「体の中に異物を入れること」への不安に寄り添う
→ 不安を丁寧に聞き取り、触診で確認できる安心感を伝えましょう - 副作用や月経変化への継続的なフォローを提案
→ 導入後の変化に対応できるよう、フォローアップの体制を整えておくことも信頼につながります
避妊インプラントは、高い確実性と長期的な効果を持ち、現代女性のライフスタイルに適した避妊法のひとつです。日本ではまだ一般的ではありませんが、今後の導入が期待される方法として、助産師が正確な知識を持ち、適切なカウンセリングができることは、女性の自己決定を支える大きな力になります。「避妊は選べるもの」そう伝えられる助産師であるために、これからも新しい避妊法について学び、実践に活かしていきましょう。
参考文献
避妊インプラント(etonogestrel-releasing implant)の安全性・使用条件(WHO MECカテゴリー分類)などに関する情報
産婦人科診療ガイドライン - 婦人科外来編 2023
Merck/MSD社:Implanon®/Nexplanon®製品情報
日本における避妊インプラントの承認状況、適応外使用などに関する資料
病気がみえるvol.9 婦人科・乳腺外科 第5版

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