
【助産師なら知っておきたい】低用量ピルとの違いは?スリンダの特徴と“選ばれる理由”を解説
- 低用量ピル
- 避妊薬
- スリンダ
2025年5月19日に承認され、2025年6月30日から発売が開始された「スリンダ錠28」(一般名:ドロスピレノン)が、日本の避妊薬事情に大きな変化をもたらしています。この薬剤の最大の特徴は、日本初のエストロゲンを含まない経口避妊薬である点です。
スリンダの登場背景には、従来の低用量ピルでは対応が困難だった女性たちのニーズがありました。エストロゲンによる血栓症リスクを避けたい女性、授乳中の女性、高血圧や喫煙歴のある女性など、これまで経口避妊薬の選択肢から除外されがちだった層に対する新たなアプローチとして期待されています。海外では既に多くの国で承認されており、特にヨーロッパでは2009年から使用されている実績があります。日本での承認により、ようやく国際基準に近い避妊選択肢を提供できる環境が整いました。この薬剤の登場は、単に新しい薬が増えたというだけでなく、避妊方法の選択において、女性の個別性により配慮した医療提供が可能になったという大きな意味を持ちます。従来「ピルは使えない」と諦めていた女性たちにとって、新たな選択肢を持つことができるようになりました。助産師として、この新しい選択肢を適切に理解し、正確な情報を提供することでより個別化されたケアの実現が期待されます。

1.スリンダとは?|成分・作用・従来ピルとの違い
有効成分:ドロスピレノンのみ(プロゲスチン)
スリンダの有効成分はドロスピレノン4mgのみです。従来の低用量ピルがエストロゲンとプロゲスチンの配合剤であるのに対し、スリンダはプロゲスチン単独製剤という点が大きく異なります。ドロスピレノンは第4世代プロゲスチンと呼ばれる合成プロゲスチンで、天然プロゲステロンに近い作用を示します。抗アンドロゲン作用や抗ミネラルコルチコイド作用も有するため、ニキビの改善や浮腫の軽減効果も期待できます。
避妊のメカニズム
スリンダの避妊効果は、主に3つのメカニズムによって発揮されます。
- 排卵の抑制:視床下部-下垂体-卵巣軸に作用し、LHサージを抑制することで排卵を阻害します。
- 頸管粘液の変化: 頸管粘液の粘度を増加させ、精子の子宮内への侵入を困難にします。
- 子宮内膜の変化:子宮内膜を薄くし、受精卵の着床を阻害する可能性があります。
これらの複合的な作用により、適切に服用した場合の避妊効果は99%以上とされています。
服用方法
月経第1〜5日目に服用を開始します。
1日1錠を毎日同じ時間に服用、28日間投与を1周期とします(1シート:24錠の実薬+4錠のプラセボ錠)。
シート終了後、翌日から新しいシートを開始します。
飲み忘れ時の対処法
- 12時間以内の飲み忘れ:気づいた時点で服用し、翌日からは通常通り
- 12時間以上24時間以内:気づいた時点で服用、翌7日間は追加避妊法を併用
- 24時間以上の飲み忘れ:新しいシートから服用開始を検討し、医師に相談
内服禁忌
- 過敏性素因
- 急性腎障害
- 重篤な肝障害
- 重篤な腎障害
- 乳癌、生殖器癌またはその疑いがある
- 診断の確定していない異常性器出血がる
エストロゲン含有ピルとの違い
従来の低用量ピルとスリンダの最も大きな違いは、出血パターン、副作用、適応対象の3つです。
1)出血パターンの違い
- 従来ピル:規則的な消退出血(月経様出血)
- スリンダ:不規則な出血、不正出血の頻度が高い
2)副作用の違い
- 血栓症のリスクが低い
- 乳房の張りや頭痛が少ない傾向
- 不正出血の発生頻度は高い
3)適応対象
従来ピルでは禁忌とされていた以下に当てはまる女性にも処方可能。
- 血栓症の既往歴がある女性
- 高血圧の女性
- 喫煙者(特に35歳以上)
- 授乳中の女性
2. ピルではなくスリンダが向いている人
1)血栓症リスクを有する女性
- 血栓症の既往歴
- 家族歴に血栓症がある
- 肥満(BMI 30以上)
- 長期臥床が必要な状況
2)心血管系リスクを有する女性
- 高血圧
- 糖尿病
- 脂質異常症
- 喫煙者(特に35歳以上)
3)その他の適応対象
- 授乳中の女性(産後6週間以降)
- エストロゲン関連副作用(乳房の張り、頭痛など)に敏感な女性
- 偏頭痛の既往がある女性
スリンダは避妊目的での処方が主ですが、プロゲスチンの作用によりPMS(月経前症候群)の軽減、月経困難症の改善、ニキビの改善(抗アンドロゲン作用)、浮腫の軽減(抗ミネラルコルチコイド作用)などの症状改善も期待できます。ただし、これらの効果は個人差が大きく、必ずしも全ての女性に当てはまるわけではありません。
3.副作用と注意点
頻度の高い副作用
- 不正出血(約30-40%)
- 無月経(長期使用で増加)
- 頭痛
- 乳房の不快感
注意点
- 服用開始から3-6ヶ月は出血パターンが不安定
- 毎日同じ時間に服用することが重要(24時間以内での服用が推奨)
- 消化器症状(嘔吐・下痢)時は追加避妊法の検討が必要
4. 助産師が知っておくべきポイント
カウンセリングで伝えるべき特徴
1) 出血パターンの変化について
- 従来のピルとは異なり、規則的な月経は来なくなる。
- 不正出血が起こることがありますが、薬の作用の一部であること
2)服用の重要性
- 毎日同じ時間に服用することで、確実な避妊効果が得られる
- 飲み忘れた場合の対処法を一緒に確認する
3)個別性への配慮
- 女性一人ひとりの背景(授乳状況、既往歴、生活スタイル)を考慮し、スリンダが最適な選択肢かどうかを一緒に検討する
自費処方と保険適応の区別
2025年7月時点で、スリンダは避妊目的での処方となるため、薬価非収載品として自費診療での処方となります。費用は医療機関により異なりますが、月額3,000-5,000円程度が相場とされています。保険適応については、今後の制度改正により変更される可能性があるため、最新の情報を定期的に確認することが重要です。
スリンダの登場により、避妊薬の選択肢は確実に広がりました。これは女性にとって朗報で、その女性にとって最適な避妊法は何かという、より細やかな選択支援が可能になりました。しかし、選択肢が増えることは同時に、私たちの責任も重くなることを意味します。各薬剤の特徴を正確に理解し、女性一人ひとりの背景や希望に応じた最適な選択肢を提示する能力が求められます。また、スリンダをはじめとする新しい薬剤については、長期的な安全性や効果について、今後も継続的に情報が更新されていくため、常に学び続け、最新のエビデンスに基づいた情報提供を行う姿勢が重要です。助産師とし一人ひとりの女性に寄り添い、その人らしい避妊選択を実現するために、専門職として成長し続けていきましょう。

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