【助産師必修】子宮収縮抑制剤と切迫早産の治療 副作用と看護のポイント
- 切迫流早産
- 子宮収縮抑制剤
- 切迫早産治療薬
子宮収縮抑制剤は、産科でよく使われる薬剤の1つです。切迫流早産の治療を中心に幅広い妊婦さんへ投与されています。しかし切迫流早産の治療は「この薬剤の服用で絶対に流早産を防げる」という薬剤はなく、ガイドライン上でも「流産予防効果が確率された薬剤は存在しない」と記載されています。そのため特に薬剤の使用期間などについては、施設毎によって違いが大きく分かれている現状があります。
施設毎の取り決めに沿った看護の提供は必要ですが、専門職としてガイドラインにどのように記載されているか、エビデンスや研究結果の知識を把握することが必要です。
リトドリン塩酸塩(ウテメリン、ルテオニン、リトドリン、リトドールなど)
切迫流早産の最も代表的な薬剤です。アドレナリンβ受容体刺激作用によるカルシウムイオン取り込み促進作用により、子宮筋を弛緩させることで子宮の異常収縮を抑え、それに伴う疼痛を改善します。内服薬と静脈内持続点滴の方法があります。
妊娠16週以降に使用可能で、添付文書には妊娠35週以下又は推定胎児体重2500g未満の妊婦への使用が望ましいとされています。
ガイドラインには「コルチコステロイド(リンデロン)1クール投与、あるいは未熟児管理可能施設への母体搬送を目的とした場合に限り、48時間以内の持続点滴投与法が支持」と記載されています。
欧米では、陣痛抑制の効果が48時間以内に限られるというエビデンスから、子宮収縮抑制の点滴投与は48時間に限定されています。(硫酸マグネシウムも含む)また内服でのリトドリン塩酸塩も、重篤かつ多様な副作用が問題となり、使用自体が中止されています。
最大投与量は毎分200γgです。
(それぞれ2A60ml/H、3A40ml/H、4A30ml/H、6A20ml/Hが200γg)
副作用
頻脈、動悸、手の震え、ほてりなどが出ることが多く、身体的苦痛を抱く妊婦さんが多いです。その他、重篤な副作用としては肺水腫、横紋筋融解症、汎血球減少、肝逸脱酵素上昇などがあります。また、母体が高血糖になることもあるため、糖尿病合併妊娠や妊娠糖尿病の妊婦さんは注意が必要です。
パンダ先輩
まだまだ日本では子宮収縮抑制剤の長期投与が主流となっているよね。日本は欧米と違ってクリニックや個人病院での出産が多いから、未熟児の管理可能施設が多くないことも背景にあるよ。
硫酸マグネシウム(マグネゾール、マグセント)
カルシウムチャネル遮断作用により、子宮平滑筋の収縮を抑制します。リトドリン塩酸塩を使用できない症例でも使われます。また、子癇発作予防の際にも使用されます。
ただし、必ずマグネシウム中毒を防ぐために血中マグネシウム濃度をモニターし、過剰投与に注意しなければいけません。長期投与が必要な場合は、リトドリン塩酸塩と同様、妊娠継続による有益性が投与リスクを上回るかを慎重に判断する必要があります。
米国では硫酸マグネシウムは「7日間以上の投与により児が低カルシウム血症や骨減少症の危険がある」と警告しており、日本国内でも長期投与の児への副作用がいくつか報告されています。
副作用
頭痛、脱力感、強い倦怠感やほてりが出ることが多く、身体的苦痛を抱く妊婦さんが多いです。そのため患者さんの病室の環境整備、特に転倒転落に注意し安全な療養環境を提供しましょう。
切迫早産の治療域は、血中マグネシウム濃度が4〜7.5mg/dlです。8.4mg/dl以上は膝蓋腱反射の消失、12mg/dl以上になると呼吸抑制、14.4mg/dl以上で呼吸停止や不整脈などの重篤な副作用が生じます。
イソクスプリン塩酸塩(ズファジラン)
血液粘度低下作用、血管拡張作用により脳・末梢の血液循環動態を改善し、子宮筋弛緩作用により子宮筋の収縮・痙攣を改善します。β受容体刺激薬の一つで、妊娠12週以降〜16週未満の切迫流産が適応です。
1日量30~60mg(3~6錠)を3~4回に分けて内服します。
副作用
動悸、頭痛、めまい、眠気、倦怠感、発汗、発疹、嘔気などがあります。リトドリンと作用も副作用も似ていますが、比較的副作用は出にくいことが特徴です。
パンダ先輩
ズファジランは月経困難症や頭部外傷後遺症の治療に使われることもあるよ!
ペリドレート塩酸塩(ダクチル)
抗コリン薬で子宮平滑筋収縮抑制作用があります。妊娠12週未満で出血等の症状がある場合に使用します。ただし、下腹部緊満感など自覚症状の改善効果はあるが、流産予防効果は明言されていません。
1日150~200mgを3~4回に分けて内服します。
副作用
瞳孔の拡大、目眩や動悸、喉の渇き、便秘などの症状が現れることがあります。
カルシウム拮抗薬(アダラートなど)
カルシウムチャネル遮断作用により、子宮平滑筋の収縮を抑制します。リトドリンと比較し、早産抑制効果が同等かそれ以上で副作用も少ないとされ、欧米では切迫早産治療薬の一つとして挙げられています。日本では妊娠20週以降の妊婦に対し、治療の有益性が危険性を上回ると判断された場合に使用可能となったものの、切迫早産に対する適応はありません。そのため、保険適用外使用であることを必ず患者さんへ伝えましょう。
服用量については、日本人の適正投与量の確立や有効性、安全性についてはまだ証明されていません。米国では初回投与のみ30mg、以降は4〜6時間毎に10〜20mg投与することを推奨しています。
副作用
ふらつきや頭痛、体熱感、動悸、便秘などの症状が現れることがあります。また血管拡張作用による低血圧にも注意が必要です。
パンダ先輩
定期内服により本当は上昇傾向にある血圧が隠れてしまい、HDPの発見が遅れてしまうこともあるので注意しよう。
通常の妊娠高血圧患者は20〜40mg/日の服用量だから、高血圧治療の用量をはるかに超える量を服用するということだよ!
ヒドロキシプロゲステロンカプロン酸エステル(プロゲデポー)
子宮筋の自発性収縮抑制や、オキシトシンに対する感受性を低下させ絨毛血管良好にする作用があります。また黄体ホルモンのため、妊娠の成立や維持にもつながるため、習慣性流早産や黄体機能不全による不妊症治療にも用いられます。ただし、すでに子宮頸管が短縮している場合の早産予防効果は明言されていません。
1Aは125mg/1mlで、使用方法は1/2〜1A(65mg〜125mg)を1回/週で筋肉注射で投与します。継続が必要な薬剤のため、注射部位を変えながら続けていきます。
低容量アスピリン(バイアスピリン、バファリン配合錠A81)
血小板凝集や血液凝固の異常が原因と考えられる不育症が適応です。胎盤血流改善が期待でき、習慣流産に対し使用します。妊娠28週までの内服、または医師の指示により必要に応じて分娩の1週間前程度まで内服することもあります。分娩直前まで内服指示の場合は、分娩時出血に注意しなければいけません。
ヘパリンカルシウム(ヘパリンカルシウム皮下注5千単位/0.2シリンジ)
抗リン脂質抗体陽性や血液凝固の異常が原因と考えられる不育症が適応です。胎盤血流異常改善が期待でき、流産や死産を予防します。1日2回12時間毎に皮下へ自己注射していきます。注射部位は皮膚トラブルを生じやすいため、患者さんが皮膚トラブルを抱えていないか注意して観察しましょう。妊娠経過をみながら、医師の指示で35〜36週頃まで投与継続していきます。
副作用
ヘパリン起因性血小板減少症に注意が必要です。また分娩時には血小板のデータと、いつまで投与していたかを確認しましょう。分娩直前まで投与していた場合には分娩時出血に注意が必要です。
ベタメタゾン(リンデロン)
妊娠24週以降〜34週未満の早産が1週間以内に予想される場合に、児の肺成熟や頭蓋内出血予防を目的に投与します。投与方法は筋肉注射で、12mgを24時間毎に計2回投与します。
ただし、1週間以内に早産とならなかった場合の反復投与に関しては、出生時体重低下や神経認知、感覚機能低下への懸念もあるため、ガイドラインでは推奨とは記載されていません。そのため2クール以上の投与に関しては各施設での方針に委ねられています。
副作用
ステロイド作用により、母体が高血糖を来たす場合があるため糖尿病合併妊娠や妊娠糖尿病の患者さんへの投与時は血糖値に注意する必要があります。
またリトドリンやマグセントとの併用は、急激な呼吸困難や肺水腫を来たす可能性があり、少なくても投与後24時間は慎重な観察が必要です。
産婦人科診療ガイドライン中では、切迫流早産の管理について「確立されていない」「慎重に検討」など名言されていない薬剤も多くあり、施設毎によって方針が異なることが多いです。特に子宮収縮抑制剤の使用期間については、施設毎により大きく異なるため、自施設での取り決めに従っていただきたいです。ただし、ガイドライン上でどう記載されているのか、新しい情報やエビデンスを知ることは臨床で働く上では不可欠な知識となります。私たち助産師は、常に新しい情報にアンテナを伸ばし、学び続ける姿勢が必要です。
切迫流早産の治療が開始された妊婦さんは、大きな不安の中にいます。SNSやインターネットなどにより様々な施設の異なる治療方針など様々な情報を目にすることで、より治療への不安も大きくなります。治療を継続していても分娩を回避できないケースもあり、ママ達の理想と現実のギャップが生じることも多いです。助産師としてそのようなママに関わる際には、ガイドラインに則った正しい知識の上で、ママやご家族の気持ちに寄り添うことが必要です。
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