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産褥期(育児)
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2024

母乳分泌の過程とホルモンの関係|助産師が知っておきたい母乳育児支援

  • 母乳育児
  • 母乳分泌促進ケア
  • 育児支援
SUMMARY
この記事でわかること
 産後母乳が出るまでには、妊娠中からのホルモンの働きが重要になってきます。助産師は母乳に関係するホルモンの働きをきちんと理解し、妊産褥婦さんへ情報提供することによって、乳汁の産生や分泌の促進を支援していく役割を担っています。

 乳汁を産生、分泌させるために必要なホルモンの働きをみなさんは理解できていますか?また、妊産褥婦さんから質問を受けた時にきちんと説明ができますか?この記事では、妊娠中に乳腺を発達させるホルモンの働きや産後に母乳分泌を調整するホルモンの働きについて取り上げ、母乳育児を希望するお母さんに対して私たち助産師ができる支援について考えていきます。


妊娠中の乳腺の発達とホルモンの変化

  乳腺組織の成長・発達、乳汁分泌には以下のようなさまざまなホルモンが関与しています。


卵胞ホルモン(エストロゲン)

 乳腺の増殖と分化を促進します。

黄体ホルモン(プロゲステロン)

 乳腺の成長を促します。出産により胎盤性プロゲステロンが消退することが誘因となり、母乳分泌がプロラクチンが存在する条件下で開始されます。

乳汁分泌ホルモン(プロラクチン)

 乳腺と乳管の増殖と分化を促し、乳房の体積を増加させます。視床下部から分泌されるプロラクチン抑制因子により抑制的にコントロールされています。妊娠中のプロラクチン血中濃度は、非妊時の10~20倍となります。

ヒト胎盤性ラクトーゲン(hPL)

 胎盤で生成され、妊娠中増加し、出産後速やかに消退します。妊娠中の乳汁分泌を抑制している可能性があるとされるホルモンになります。

乳汁生成

 妊娠の中期から産褥期にかけて、以下の段階を経て、乳汁が生成されます。


乳汁生成Ⅰ期

 妊娠16週頃から産後2日ぐらいまでの乳腺が乳汁を分泌できるようになる時期をさします。この時期に分泌される乳汁を初乳と呼びます。初乳は乳糖、総蛋白、免疫グロブリンが増加し、乳汁産生のために必要な物質が集められます。また、乳腺房の上皮細胞が分泌細胞に分化し、乳腺葉が大きくなることによって乳房のサイズも大きくなります。

 乳汁の生成は分娩後のまだプロラクチン濃度の高いときに血漿プロゲステロンが減少することにより開始されます。産後1〜2日間は胎盤由来のプロゲステロンが消失する時期であるため、初乳の分泌は少なくなるという特徴があります。さらに、出産直後から頻回授乳や搾乳で乳頭や乳輪に刺激を与えることで、乳汁生成Ⅱ期に移行しやすくなります。

乳汁生成Ⅱ期

 乳汁分泌が増加し(乳汁来潮)、それが確立するまでの時期をさします。胎盤が娩出され、プロゲステロン・エストロゲン・ヒト胎盤性ラクトーゲン(hPL)の3つのホルモンが急激に低下することが引き金となります。血流、酸素、ブドウ糖の取り込みなどの増加と同時に乳酸の濃縮が急速に増加します。乳汁の組成の大きな変化が約10日間持続し、成乳となっていきます。

乳汁生成Ⅲ期

 分娩後約9日を過ぎて、乳汁産生が維持される時期をさします。産生される乳汁の量は1回の授乳や搾乳によって乳房から除去される量に関連しています。この時期の短期的な乳汁産生は局所でのオートクリン・コントロールで調節されていて、乳汁分泌を維持するためには、赤ちゃんが有効に乳汁を飲みとる、もしくは搾乳することが必要になります。



母乳分泌の調節

 母乳分泌には、「エンドクリン・コントロール(内分泌的調節)」と「オートクリン・コントロ―ル(局所的調節)」の2つの調節経路が重要となります。

エンドクリン・コントロール(内分泌的調節)

 内分泌物質(ホルモン)の放出や抑制により、乳汁の生産量が調節されることをエンドクリン・コントロール(内分泌的調節)といいます。

プロゲステロン

 プロゲステロンはプロラクチンの強力な抑制因子です。妊娠中は高値が続きますが、出産後の胎盤娩出に伴い急激な低下が起こります。プロラクチンレベルが高値のままであることにより、本格的な乳汁分泌が始まると考えられています。分娩後に胎盤遺残があると、乳汁分泌が抑制されます。

エストロゲン

 エストロゲンは乳腺形成におけるプロラクチンの働きを増強します。しかし、乳汁産生に対しては抑制的なので、プロラクチンに拮抗する働きをします。 

プロラクチン

 妊娠中は乳房の発育と乳腺細胞の分化に重要な役割を果たします。分娩によってプロゲステロンとエストロゲンの血中濃度が急激に低下すると、プロラクチンが放出されます。乳汁分泌の開始と維持に必須のホルモンです。プロラクチンの濃度は分娩直後が最高で、その後はゆっくりと低下しますが、乳頭の刺激の度に一過性に上昇します。分娩後1週間で授乳している女性のプロラクチンレベルは分娩直後の50%に低下しますが、吸啜により上昇します。授乳しないと産後2週間で正常非妊時のレベルに戻ります。授乳回数が多いほうが血清中のプロラクチン濃度が高くなります。24時間に8回以上授乳していると次の授乳までに濃度が低下するのを妨げます。

オキシトシン

 オキシトシンは乳汁産生の維持に主要な役割を果たすとともに、子宮の収縮を促します。赤ちゃんが吸啜する刺激に反応して、下垂体後葉からパルス状に放出され、乳腺房の筋上皮細胞に作用して射乳反射を起こします。赤ちゃんが哺乳を開始すると1分以内に血中濃度が上昇し、哺乳をやめると6分以内に基礎値に戻ります。このオキシトシンの放出は、授乳を続ける限り持続してみられます。分娩後すぐに母児が肌と肌を触れ合うと、お母さんのオキシトシンの血中濃度は著しく増加します。もし、赤ちゃんが吸啜しなければ60分後には基礎値に戻ります。

 赤ちゃんが吸啜するという直接の刺激だけでなく、赤ちゃんのことを考えたり、泣き声を聞いたり、赤ちゃんの匂いを嗅いだりするだけでもオキシトシンが分泌され、射乳反射を起こす作用があります。また、オキシトシンには神経伝達物質としても働き、鎮静作用、愛着行動を促進する作用、痛みに対する閾値をあげる、などさまざまな作用を及ぼします。

プロラクチン抑制因子(PIF)

  PIFは視床下部で産生される物質で、ドーパミンそのものやドーパミン関連物質です。視床下部のカテコールアミンレベルにより調節されます。ブロモクリプチンはドーパミン様の作用を持ち、プロラクチンの作用をもち、プロラクチンの作用を抑制します。メトクロプラミドやフェノチアジン誘導体、レセルピン、ドンペリドンはPIFの作用を抑制します。

オートクリン・コントロール(非内分泌的調節、局所的調節)

 乳汁生成Ⅲ期になると、短期的な乳汁産生量の制御に関しては、オートクリン・コントロールが主要な役割を担います。乳汁産生は授乳回数が多いほど多くなります。また、乳房がどのくらい「空」になったかが、次回の授乳までの乳汁産生の目安となります。乳房の乳汁産生は、左右それぞれ独立して調整されています。乳汁中には、乳汁産生制御因子(FIL)というホエイ蛋白が含まれていて、分泌を調節しています。乳汁が長時間乳腺房の中に留まると、その濃度が上昇し、乳汁産生を低下させます。つまり、乳汁が飲みとられた分もしくは搾乳した分だけ、新たに産生されるということを意味します。

母乳育児を希望するお母さんへの支援

乳汁分泌の開始を早めるために

・なるべく生後早期から授乳を始めましょう。可能であれば生後1時間以内に始められることが理想とされています。

・少なくとも3時間に1回、1日8回以上授乳を行いましょう、頻回な吸啜刺激により、プロラクチンやオキシトシンを上昇させ、乳汁産生や射乳が促進されます。

・赤ちゃんが乳房から効果的に乳汁を飲みとれるようにラッチ・オンやポジショニングなどの適切な支援を行いましょう。効果的に哺乳できない場合は、定期的な搾乳の支援を行うと良いです。

・お母さんの痛みやストレスが軽減できるようなケアを提供し、安心して授乳できる環境を整えましょう。

乳汁の産生を増加させるために

・直接授乳によって赤ちゃんに乳房から乳汁を飲みとってもらいましょう。もし、直接授乳が難しい場合は、搾乳して乳房を空に近い状態にすることで、乳汁分泌を維持しましょう。

乳房のマッサージを行いましょう。まず基底部のマッサージから始め、分泌が増えてきたら、乳頭・乳輪部のマッサージに変えましょう。

・母乳は血液からできているため、水分を摂ることで血液循環が良くなり、母乳分泌が良くなります。1日に1.5〜2Lの水分を一度にまとめてではなく、数回に分けて摂りましょう。


 乳汁の産生や分泌は遺伝や乳房の大きさが関係していると思っている方も少なくないでしょう。妊産褥婦さんから実際に「自分のお母さんが母乳の出が良かった(あるいは悪かった)から、自分も一緒だと思うんです」「ちゃんと出るか心配で」といった声を聞いたこともあると思います。しかし、乳汁の産生や分泌に本当に関係が深いのはホルモンなのです。私たち助産師は、母乳育児を希望するお母さんが初めから諦めることのないように、きちんと情報提供しながら支援していく必要があります。


参考文献

・母乳育児支援スタンダード 第2版 NPO法人日本ラクテーション・コンサルタント協会(JALC) 医学書院

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