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妊娠期
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2024

【2024年最新】RSウイルスに初の母子免疫ワクチン導入開始!アブリボスの秘密

  • 母子感染
  • 胎児への影響
  • 新生児
SUMMARY
この記事でわかること
 2歳までにほぼ100%の乳幼児が感染するとされるRSウイルス。妊娠期に接種するRSウイルス母子免疫ワクチン(アブリスボ)の登場により、今後私たち助産師にも妊婦さんへの情報提供と妊婦さんが安心してワクチンを接種できる環境づくりが求められています。

RSウイルスは、その感染力の高さから子育て中のお母さんたちには名の知れた感染症ですが、正直これまで私たち助産師がその治療や予防に関与する場面は少なかったと思います。しかし、2024年5月末から妊婦さんに対してRSウイルス母子免疫ワクチン(アブリスボ)の投与が始まりました。そこで、今回の記事ではRSウイルスの病態、治療法、予防法や予防薬、そしてアブリスボについて取り上げ、RSウイルスに関する知識を深めることを目標としていきます。


RSウイルス感染症について

 RSウイルス感染症とは、RSウイルスの感染による呼吸器の感染症です。何度も感染と発病を繰り返しますが、生後1歳までに半数以上が、2歳までにほぼ100%の乳幼児が感染するとされています。9月頃から流行し、初春まで続くとされてきましたが、近年では夏季より流行が始まるようになってきているのが特徴です。非常に感染力が強いため、幼稚園や保育園などの施設内感染に注意が必要です。

症状

 RSウイルスの症状としては、発熱、鼻汁などの風邪のような症状から表1のような重い症状まで様々です。
RSウイルスに初めて感染した場合はより重症化しやすいといわれています。特に生後6か月以内にRSウイルスに感染した場合には、細気管支炎、肺炎など重症化する場合があります。 


表1 RSウイルスが重症化した場合の症状

・息を吐くときに「ヒュー、ヒュー」「ゼーゼー」と音がする(喘鳴がある)

・顔色や唇の色が悪い(チアノーゼが出ている)

・胸がペコペコとへこむような呼吸をする

・呼吸が速く、呼吸の回数が極端に増えている

感染経路

 RSウイルスは、接触感染と飛沫感染によって感染が拡大します。接触感染は、RSウイルスに感染している人との接的な接触や、感染者が触れたことによりウイルスが付着した手指や物品(ドアノブ、手すり、スイッチ、机、椅子、おもちゃ、コップ等)を触ったり、なめることで感染することを指します。また飛沫感染は、RSウイルスに感染している人が咳やくしゃみ、あるいは会話などをした際に口から飛び散るしぶきを浴びて吸い込むことにより感染することを指します。

感染リスク

  RSウイルスは、表2に該当する赤ちゃんに感染した場合、重症化のリスクが高いといわれています。
心臓や肺に基礎疾患のある赤ちゃんや、神経・筋疾患あるいは免疫不全の基礎疾患をもつ赤ちゃんが生後24か月以下の場合は特に注意が必要です。

 

表2  感染リスクの高い乳幼児

・生後6か月未満

・早産・低出生体重児

・先天性心疾患

・慢性肺疾患

・ダウン症

・免疫不全症

治療法

 RSウイルスに対して効果的な抗ウイルス薬はないため、基本的には症状に合わせて対症療法(去痰薬や解熱剤の投与など)を行います。
また、呼吸状態の改善のために吸入を行う場合もあります。

予防法

 RSウイルスの感染予防としては、以下の内容が挙げられます。

・RSウイルスの流行期に生後6か月未満の乳児を連れて外出する場合は、人ごみを避ける。

・うがい手洗いを徹底し、マスクを着用する。

・おもちゃやおしゃぶりなど赤ちゃんが口に入れるものは清潔にしておく(RSウイルスは消毒薬に弱いので、次亜塩素酸ナトリウム(ミルトン)、消毒用アルコール、ポピドンヨード(イソジンなど)が有効。

シナジス

 シナジスは、RSウイルス感染による呼吸器感染症の重症化を抑制するための薬です。
そのため、注射をしていても、完全にRSウイルス感染症を予防することはできません。しかし、シナジスを注射しておくことで、万が一RSウイルスに感染した場合でも重症化を防ぐことができます。

シナジスの適応は表3に該当する乳幼児となっています。

表3 シナジスの適応

早産児

・在胎期間が28週以下(28週6日まで)で、12か月齢以下(13か月齢未満)

・在胎期間が29週〜35週(35週6日まで)で、6か月齢以下(7か月齢未満)


②以下の基礎疾患をもち、接種開始日時点で24か月齢以下の児

・血行動態に異常のある先天性心疾患

・免疫不全

・ダウン症候群

・肺低形成(先天性横隔膜ヘルニアなど)

・気道狭窄(気管軟化症、喉頭狭窄症など)

・先天性食道閉鎖

・先天性代謝異常症

・神経筋疾患(筋ジストロフィーなど)

投与方法について

  シナジスは、RSウイルスの流行期に体重1kgあたり15mgを月1回筋肉内に投与します。接種部位としては、大腿前外側部が推奨されています。万が一、注射量が1mLを超える場合には分割して投与します。シナジスは通常の予防接種で行うワクチンではなく、RS ウイルスに効果がある抗体成分を精製したものであることから、効果は約1 か月間続きます。RSウイルスの流行期には、毎月投与する必要があります。予防接種との間隔を考慮する必要はなく、同時接種も可能となります。

ベイフォータス

 ベイフォータスは、シナジスと同様にRSウイルス感染による呼吸器感染症の発症を抑制するための薬です。生後初めてのRSウイルス流行期を迎えるすべての新生児や乳児だけではなく、生後2回目のRSウイルス流行期を迎える重症化リスクの高い生後24か月齢までの乳児や幼児も適応となります。接種部位もシナジスと同様、大腿前外側部の筋肉内が好ましいとされています。


RSウイルス母子免疫ワクチン(アブリスボ)

 アブリスボは、RSウイルス感染症を予防するワクチンです。妊婦さんに接種することで、お母さんの体内で抗体が作られ、その抗体が胎盤を通じて赤ちゃんに移行します。赤ちゃんは生後数か月の間、免疫が十分ではありませんが、アブリスボは、その期間も含めてRSウイルスから赤ちゃんを守る効果が期待されています。アブリスボは、生後6か月までの有効性は検証されていますが、以下の①〜③についてはまだ確立されていません。

①生後6か月以降の有効性

②アブリスボの接種後14日以内に出生した赤ちゃんへの有効性

③アブリスボの接種後14日以内に出生した赤ちゃんに関して、胎児への抗体の移行が十分であるか

投与方法 

  妊娠24〜36週の妊婦に1回当たり0.5mLを筋肉内に接種します。特に、妊娠28〜36週の間にアブリスボを接種することでより有効性が高いとされています。乳児の RS ウイルス感染症に対して、出生後に乳児に抗体薬(RS ウイルスに対する抗体の製剤)を投与する予防法もあります。妊娠中に既にアブリスボを接種している場合は、移行抗体によって乳児は守られているため、抗体薬を出生直後乳児に投与することはありません



 これまでRSウイルスの感染対策は、シナジスやベイフォータスのように出生後の乳児に投与する予防薬しかありませんでした。しかし、今回アブリスボが開発されたことで妊娠期からRSウイルスを予防できるようになりました。シナジスやベイフォータスは小児科で投与されることがほとんどであまり助産師には馴染みがありませんでしたが、今後アブリスボが普及することで私たちから妊婦さんへ説明する場面も増えてくると思います。妊婦さんが安心してワクチンを接種できるよう、正しい知識を持ち、妊婦さんへの情報提供を行っていきましょう。

参考文献
厚生労働省 RSウイルス感染症Q&A
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/rs_qa.html
Medi Channel シナジス製品情報
https://med.astrazeneca.co.jp/product/brand-sng.html
アストラゼネカ ベイフォータスの投与を受けるお子さんの保護者の方へ
https://www.jp.beyfortus.com
ファイザーメディカルインフォメーション アブリスボ製品情報
https://labeling.pfizer.com/ShowLabeling.aspx?id=20294


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