【助産師必見】妊娠中に運動をするべき理由3選|マタニティヨガなど具体的な運動について
妊娠中の運動について、皆さんはどのように保健指導で妊婦さんへ説明しているでしょうか。マイナートラブルを減らすためにも、妊娠中の体重管理や身体作りにおいても、運動は切っても切り離せない存在です。ですが「適度な運動」の適度がどの程度なのか、どの教科書を開いても明言されていないことが多いですよね。
今回は、一般社団法人マタニティトレーニング&ケア協会代表の山村美暖さんと一緒に妊娠中の運動について考えていこうと思います。山村さんは、もともとパーソナルトレーナーとして芸能界の方や医療者の方に向けたサポートをされていました。ご自身の第一子妊娠中にマタニティトレーニングを学ぶため、文化が進んでいるアメリカに渡り、本場アメリカのマタニティトレーナーの資格を取得。その後も論文をベースに勉強と実践を繰り返し、第2子では理想としていた「いきまないお産」も達成されています。そんなご自身のご経験や知識をもとに、現在は助産師や理学療法士、運動指導者などに向けたセミナーを行い、セミナーでは毎回50名以上の参加者が集まるとのことです。
じょさんしnavi柏村
私も普段妊婦さんと接することが多くて、妊娠中の運動について聞かれることもあるんですね。ですが、やはり妊婦=運動はしすぎたらいけないとか危険、というイメージを抱いてる人は多いと思います。 山村さんはそんな日本のイメージに対してどうお考えでしょうか?
山村
私も実は全く偉そうなこと言えなくて、第一子の妊娠が分かった時、産前産後の知識が全くなかったので、それまで習慣にしていた筋トレやストレッチを8割くらいやめてしまったんです。でもそしたら中期に差し掛かる前に尿漏れも腰痛も仙腸関節痛も出てきてしまったんですね。ちょうどその頃イギリス人の友人に「妊娠したから最近はあんまり運動しないようにしてるんだ」と報告したら、「なんで?妊娠したからむしろ運動しないといけないんじゃないの?」と言われ、カルチャーショックを受けました。
日本では「病院に取り上げてもらう」という意識の人が多いですが、保険制度の違いからも海外は「自分の出産や産後は自分でなんとかしないと」という意識が強いと思います。日本の育児文化も素晴らしい部分があるので欧米の文化が全て正しいわけではないですが。「運動してもいいよ」ではなく、出産や育児に備えて自分自身を適応させておく、というプロアクティブさが必要だと思います。
じょさんしnavi柏村
妊娠中の運動のメリットはたくさんあることはわかっていても、妊娠中の合併症や分娩時のリスクなど分娩に対するメリットを提示していることが多い気がします。山村さん自身が、妊婦さんに運動してもらう時にはどんな切り口でアプローチされているんですか?
山村
主なメリットは3つあります。まず一つ目は血流など生理的にいい状態を保てるということです。ここが合併症のリスクの低下などとセットで考えられることが多いと思います。二つ目は姿勢です。私がアプローチするときはこの姿勢を軸にして考えることが多いんですが、「妊婦だから反り腰」「妊婦だから猫背」というのはあくまでそういう傾向にある、というだけで、決して仕方がないことではないんです。姿勢を正しく保てる体の使い方、筋力、柔軟性があれば、腰痛や肩こりのリスクも減りますし、なにより子宮のポジションがいい状態を保ちやすくなります。三つ目は呼吸です。これは私が逆に質問なんですが、呼吸について勉強する助産師さんって結構いらっしゃると思うんですが、姿勢について学校が教えてくれたり、病院の中の研修であったり、ってしないですか?姿勢と呼吸って本当に切っても切り離せない関係なんですよね。運動というと汗をかいたり息を切らしたりというイメージがあるかもしれませんが、普段意識しない関節や筋肉を意識しながら呼吸練習をすることも私の考える妊婦さんに必要な運動の一つです。
じょさんしnavi柏村
マタニティヨガやマタニティスイミングといった妊婦さん向けの運動の知名度が上がってきていると思いますが、妊婦さんのにオススメの運動はなんでしょうか?
山村
この運動はいい、この運動は良くない、というのはないと思います。例えば階段を上がる時に、Aさんは前腿が疲れます、Bさんは太ももの裏が疲れます、Cさんはふくらはぎが疲れます、というようにみなさん体の使い方が違うんです。体の使い方が違うということは、同じ階段を登るという行動でも違う運動になっているんですね。マタニティヨガ、マタニティスイミングというように運動ごとにカテゴリーして何が良い、悪いと判断するのではなく、体の使い方を知りどのように使うか、という点に焦点をあててほしいです。
じょさんしnavi柏村
山村さんご自身、第一子の妊娠時にはどのような運動をされていましたか?
山村
一人目の妊娠の時は、主に普段やっていたトレーニングの延長線上になるものを行っていました。マシンを使った筋トレ、ストレッチポールでストレッチ、などです。ガイドラインなどでもよくある「これまでに習慣としていた運動は強度を落として継続してよい」というやつです。これは捉え方にもよると思うんですが、一人目の時はマタニティトレーニングの勉強を始めたばかりだったので、二人目の妊娠中の運動内容からすると「効果」という部分では劣っていたと思います。一人目の時は筋力を落とさないことや呼吸の練習が主でした。
じょさんしnavi柏村
第二子の時はご自身で勉強された知識がある中での妊娠だったわけですよね。その時は具体的にどんな運動をしましたか。
山村
第二子の妊娠時はより妊婦の体の特徴を理解したトレーニングが行えていたと思います。具体的にはとにかく反り腰にならないようにすること。ただ動かすのではなく、背骨の形や重心を整えるという視点が大きかったです。どういう風に背骨の形を理想の状態に保つかなど、ゴールに向かって自分の身体をもっていけるか、呼吸の機能をもっていけるかという視点でトレーニングをしていました。
具体的には背骨や重心というワードになりますね。そこを意識していたら、その効果としてトラブルの少なさはもちろん、おなかの突き出方が全然違いました。 第一子の時も元気な妊婦ではありましたが、お腹が突き出ていたのでそれによるトラブルもありました。第二子の時にはお腹が常にまんまるの形で、私も呼吸が辛くならず赤ちゃんにとってもきっと良い環境を過ごせていたんじゃないかなと思います。
じょさんしnavi柏村
妊婦さんの腰痛は反り腰の影響だと思っていました。反り腰と背骨の位置を意識することには関係があるのでしょうか。
山村
実は違うんです。妊娠中の日本人の背骨の形、特に腰の部分は、反り腰というワードから反っている形を連想される方が多いのですが、ほとんどの場合はフラットになる、真っ直ぐになっていくという状態が原因です。欧米人の反り腰は緩いS字カーブが大きなS字カーブという状態なのですが、日本人の反り腰はS字が大きくなるのではなく、腰骨が真っ直ぐになる傾向があります。その影響で仙腸関節痛や恥骨痛などのトラブルが多いのではないかと思っています。
日本のガイドラインは欧米のものがベースで作られているので、日本人の身体に合った運動のガイドラインというものが世の中に周知されていないから誤解が生まれてしまう原因です。
妊娠中の運動について理解を深められたでしょうか。妊娠中の身体のトラブルを最小限に留めることもできる運動。ぜひたくさんの妊婦さんにもっと積極的に行ってほしいですし、助産師自身も新しい知識をアップデートして妊婦さんへ伝えていきたいものです。
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