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分娩期
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2025

【助産師の基礎知識】産科でよく見る補液の種類|目的に応じた補液の選択

  • 輸液の種類
  • 基礎知識
  • 点滴管理
SUMMARY
この記事でわかること
この記事でわかること 皆さんは現場でよく目にする点滴の目的、きちんと理解できていますか? 帝王切開や分娩でいつもルーチンで当たり前のように使用している点滴。その違いは何か、どのように使い分けているのか、症状や目的に応じた補液を選択し管理できることが重要です。 ここでは基本的な補液についての説明と、産科ではどのような場面で使用されるかなどをまとめています。 補液の種類や特徴、使用する際の注意点や観察ポイントを理解することで、産科ケアの質の向上にもつながります。「自信ない…。」と思ったあなたは是非チェックしてみましょう。

補液は、体液バランスを調整し、母体や胎児の健康を守るために欠かせない医療手段です。

特に産科では、分娩中の脱水予防や術後の循環管理、大量出血時の対応に用いられます。
分娩や産後ケアでは、母体や胎児の健康を維持するため、適切な補液管理が求められます。

しかし、補液の種類や用途を正しく理解していないと、母体に負担を与えるリスクもあります。
補液管理の適切な選択と対応ができるように、基本的な補液の説明と産科の場面でよく使われる用途を説明していきます。



1. 補液の基本的な役割と目的

補液は、体液バランスの調整維持、エネルギー供給、血管確保などの役割を担っています。また、補液はその目的によって分類されます。

1)電解質補液:
主にナトリウム、カリウムなどの電解質や水を含み、体液の浸透圧の調整や体内のバランスを整える。

2)栄養補液:
糖分やアミノ酸などを補給し、エネルギーや栄養を提供する。

3)血液代替補液:
輸血製剤や人工膠質液(コロイド液)で、出血や貧血時などに血液量を補う。


2. よく使われる補液の種類・特徴と産科での使用について

1)水分補給液

目的:身体全体の水分補給を行う
特徴:エネルギー補給のための基本輸液。ナトリウムを含まず体内に入るとすぐに代謝されるので、血管内には残らない。
用途:低血糖予防や軽度のエネルギー補給、血管内水分を増やしたくない心不全などの患者、ナトリウムを入れたくない患者への点滴
代表例:ブドウ糖液(5%、10%)
注意点:静脈炎を起こしやすいので点滴刺入部は要観察。
長期間の使用で低カリウム血症や低マグネシウム血症を引き起こす可能性があるため、電解質補正と併用が必要。

<産科では>

 切迫流早産におけるリトドリン点滴のための希釈に使用したりします。
GDMなど糖尿病を合併している妊産婦への使用は治療や管理に影響を及ぼすことがあるため、指示を確認しましょう。
血管内に留まらないため、ショックなどに対する循環血液量回復目的の投与では役に立ちません。

2)電解質補液の種類と特徴

①等張電解質輸液
目的:主に細胞外液量を増やし、細胞外液の補正や、代謝性アシドーシスの補正をする特徴:体液(細胞外液)と同等の浸透圧を持ち、血管内に留まりやすく、循環動態の維持に効果的。電解質異常の補正に適している。生理食塩液よりリンゲル液の方がより細胞外液の電解質組成に近い。
用途:分娩中の脱水予防、術後の循環動態維持、循環血漿流量が低下した時に使用。
代表例:生理食塩水(0.9% NaCl)、乳酸リンゲル液(ラクテック注、ラクテックD、ラクテックGなど)、酢酸リンゲル液(フィジオ、ヴィーンD、ヴィーンF など)重炭酸リンゲル液(ビカーボン)
注意点:大量投与時には、代謝性アルカローシスに注意する。肝障害があると乳酸を代謝できずに蓄積して乳酸アシドーシスが起こる。

<産科では>

・生理食塩液は産科に関わらず、薬剤の希釈に使われることが多い薬剤です。大量投与では、高ナトリウム血症や代謝性アシドーシスのリスクがあるので注意します。
・帝王切開術後は術中出血により循環血液量が減少したり、術後脱水を予防するためにリンゲル液が使用されます。また術後の補液には、食事摂取ができないためエネルギーの補給や弛緩出血のリスクに備えた血管確保の意味もあります。
・大量出血などが見込まれる場合は、減少した循環血液量を補うために、初期補液としてリンゲル液の全開、急速投与を行います。低体温では凝固能が低下するため温めた輸液を使用します。

②低張電解質輸液 

目的:細胞内液に水を移動させる
特徴:体液(細胞外液)よりも浸透圧が低いため、細胞内脱水の改善に有効。
注意点:大量使用で、細胞浮腫を引き起こす可能性がある。
低張電解質輸液には以下に記す、1~4号液の補液があります。

〇1号液(開始液)
特徴:カリウムを含まない
用途:救急など患者の病態が不明な患者への水・電解質補給に適している 
代表例:KN補液1A KN補液1B、ソリタT1号、ソルデム1など

〇2号液(脱水補給液)
特徴:細胞内に多い電解質を比較的多く含む  
用途:手術前後の水分補正  
代表例:KN補液2A、KN補液2B、ソリタT2号、ソルデム2など

〇3号液(維持液)
特徴:1500~2000ml/日の投与で健常人の1日に必要な水分・電解質の補給ができる。
最も使用品頻度が高い。
用途:食事や水分を摂れない患者、電解質を補充したいとき
代表例:KN補液3A KN補液3B ソリタT3号 ソルデム3、EL3号 ヴィーン3Gなど

〇4号液(術後回復液)
特徴:カリウムとリンを含まず、電解質補正の必要がない水分補給ができる
用途:術後腎機能低下患者や新生児に使用
代表例:KN補液4A KN補液4B ソリタT4、ソルデム6

<産科では>  

悪阻の妊婦さんは水分摂取ができなかったり、嘔吐により電解質バランスが崩れるため、電解質・水分補給の目的で主に3号液を投与することがあります。



③高張電解質輸液
特徴:体液(細胞外液)より浸透圧が高く、細胞外液中の水分を血管内に引き込む作用がある。
目的・用途:重度の電解質欠乏時や脳浮腫の管理など
代表例:高張食塩水(3% NaCl)、Ca輸液、Mg輸液、K輸液など 
注意点:電解質濃度がかなり高いので、原則として単独投与は行わず、他の輸液製剤と希釈して慎重に投与する。

<産科では>

 産科では早産予防や妊娠高血圧症候群にマグセントを使用することが多いです。その際は、ブドウ糖液などをメインルートにマグセントを側管から希釈して投与します。副作用や血中マグセント濃度に注意しましょう。


3)栄養補液の種類と特徴

① アミノ酸製剤
特徴:必須アミノ酸や非必須アミノ酸を含み、たんぱく質合成を補助する。
目的・用途:術後の回復促進、栄養不良の改善。
商品名:ネオアミュー注、アミノフリード注など。
注意点:腎機能障害のある患者では、窒素負荷を避けるため使用量を調整する必要がある。アレルギー反応の有無を確認する。

② 脂肪乳剤
特徴:必須脂肪酸の中鎖脂肪酸(MCT)や長鎖脂肪酸(LCT)を含み、効率よく高カロリー補給が可能。
目的・用途:長期的なエネルギー補給。特に肝機能障害時のカロリー供給。
商品名:イントラリポス輸液など。
注意点:脂質異常症がある患者では慎重に投与する。
投与速度が速い場合、アナフィラキシーや発熱性反応を起こす可能性あり。

<産科では>

イントラリポスは本来のカロリー補給目的より、無痛分娩などにおける局所麻酔薬中毒の対応のために使用される薬剤です。局所麻酔薬を取り扱う施設では、救急カートに常備しておくことが推奨されています。施設の救急カートやマニュアルを確認してみましょう。

③ 高カロリー輸液
特徴:高濃度のブドウ糖やアミノ酸、脂肪乳剤を含む輸液で、エネルギー供給量が高い。抹消静脈栄養輸液(PPN)と中心静脈栄養輸液(TPN)がある。
目的・用途:長期的な栄養管理が必要な患者、特に経口・経腸栄養が不可能な患者。
代表例:エルネオパ、ビーフリード輸液、エネフリード(PPN)ハイカリック液、フルカリック(TPN)
注意点:投与量が多く過剰エネルギー供給になると高血糖、脂肪肝、呼吸不全を引き起こす可能性がある。輸液によって投与経路(末梢、中心静脈)が決まっているため投与ルートを間違えないように注意する。ビーフリードなどの高浸透圧の血管外漏出は皮膚障害を起こすリスクが高いため、血管外漏出が認められた場合はすぐに輸液を中止し、施設のマニュアルに沿った対応を行う。多室バック製剤のため投与時の開通確認操作を忘れずに行う。中心静脈カテーテルを使用する場合は、無菌操作と感染症管理が必須。

<産科では>

 出産での大量出血による集中管理や術後の合併症(イレウスなど)で食事摂取が長期に渡りできない場合、または重症妊娠悪阻の場合などに高カロリー輸液を使用することがあります。使用頻度は少ないかもしれませんが、開封確認操作など使用時の注意や観察ができていないと事故につながるため確認しておきましょう。



4)血液代替補液

①人工膠質液
特徴:血漿膠質浸透圧を維持する目的で使用される合成製剤。
目的:血管内に水分を引き込むことで循環血液量を増やし、血圧を安定させる。
用途:出血が多く血管内脱水となる場合、低タンパク血症時の治療補助。
代表例:ヘスパンダー、サリンヘス、フィジオコール、ボルベン
注意:腎機障害のリスクがあるため使用量を管理する

<産科では>

ショック時において、人工膠質液で血圧上昇効果が一時的にみられますが、長時間血管に留まることはなく、大量投与による腎機能障害で血液浄化が必要になる場合があるため、循環血液量維持のために多くの投与は行いません。



②アルブミン製剤
特徴:ヒト血漿由来のタンパク質製剤。血液代替としてのコロイド液で、浸透圧を高める作用がある。長時間血管内に留まるため、持続的な膠質浸透圧の維持が可能。
用途:血漿タンパク質の主成分であるアルブミンを補充し、低アルブミン血症を補正する。大量出血時や血漿浸透圧低下の補正、低タンパク血症に伴う浮腫やショックの改善。代表例:アルブミナー、ベリアルブ、ヒューマアルブミン
注意点:血漿由来製剤のため、感染症リスクがゼロではないが、アレルギー反応に注意。輸血同意書が必要。

③ 輸血用製剤(赤血球濃厚液、血漿など)
特徴:人の血液を加工・分画した製剤で大量出血時に血液成分を直接補う。
用途:羊水塞栓症や弛緩出血時の救命措置。貧血、凝固因子不足、出血時など多様な目的で使用される。
注意点:血液型不適合や感染症リスクを防ぐための厳密な管理が必要。
代表例:赤血球濃厚液(RBC)、血小板濃厚液(PC)新鮮凍結血漿(FFP)

<産科では>

アルブミン製剤も輸血用製剤についても産科での使用に特異的なことはありません。生命予後の改善には、迅速な輸血の投与が求められるので、輸血管理について学んでおきましょう。


3. 補液使用時の観察ポイント

補液の特徴について説明をしてきましたが、最後に補液を行う際の観察ポイントをまとめておきます。

1)体液バランス:
尿量、血圧、脈拍、体重の変化を確認する。

2)電解質異常:
血中ナトリウム、カリウム値など電解質値を定期的に測定し、電解質異常による症状がないか観察する。

3)過剰輸液の防止:
肺水腫や血圧上昇の徴候(呼吸苦、酸素飽和度、胸痛、浮腫など)に注意する。in/outを計算し、outを下回らないinが必要になる。

4)点滴刺入部位の観察:
疼痛、発赤、腫脹、漏れなど炎症の有無

5)細胞外液補充液の急速輸液:
・K製剤、昇圧降圧薬などが急速投与されないよう、そのルートは必ず避ける。
・急速投与により点滴漏れが起こりやすいため、点滴刺入部の確認観察を行う。
・in/outの記録と計算を行い、医師に報告し指示を仰ぐ。 
・心不全のサインを見落とさない(血圧低下、脈拍増加、末梢浮腫など)。
・異常呼吸の観察をする。
・低体温による凝固障害を予防するため輸液は保温する。


補液は、妊娠期の悪阻や切迫早産、妊娠高血圧症候群の治療から分娩時の脱水や出血への対応のためなど母体や胎児の安全を守るために欠かせないものです。

細胞外液や輸血は母体の体液バランスや循環動態を維持する上で不可欠で、産科では特に、脱水予防、栄養補給、循環動態の維持、出血時の緊急対応など多様な場面で補液が使用されます。

常に補液の種類や用途・リスクを理解し、医師の指示のもと適切な選択と管理を行うことが、助産師としての重要な役割です。
助産師として妊産婦の安全を守り、より質の高いケアを提供できるように頑張りましょう。


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