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産褥期(育児)
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2024

【助産師必見】母乳不足と母乳不足感の違いって?|母乳育児の壁|退院指導で伝えたいポイント

  • 母乳育児
  • 母乳外来
  • 退院指導
SUMMARY
この記事でわかること
 本来は異なる意味を持つ「母乳不足」と「母乳不足感」ですが、それらを同義と捉えてしまうと、お母さんは母乳育児への自信を喪失してしまうことがあります。助産師には、お母さんが「母乳不足」と「母乳不足感」を正確に区別し、自信を持って母乳育児に取り組めるように支援していくことが求められています。

 妊娠中に母乳育児を希望していた女性の割合は全体の9割を占めるとされています。皆さんも産後のお母さんに関わるなかで、母乳育児を希望する方の多さを実感しているのではないでしょうか。しかし中には、いつの間にかミルクを足したり、完全にミルクのみに切り替えてしまう方も多く、その背景には「母乳不足感」が関係しているといわれています。それでは「母乳不足感」を抱いているお母さんに対して、私たちはどのような関わりができるでしょうか。この記事では、「母乳不足」と「母乳不足感」の違いや「母乳不足感」を抱く原因について取り上げ、助産師ができる「母乳不足感」への対応について考えていきます。

「母乳不足」と「母乳不足感」とは

 「母乳不足」とは、母乳の摂取量が赤ちゃんの必要とする栄養量を満たしていない状態を指します。「母乳不足」は、①産後早期から赤ちゃんのサインに応じた効果的な授乳ができていなかったことにより赤ちゃんが母乳を飲み取る量が少ない「母乳摂取不足」②赤ちゃんが泣くとお母さんは母乳が足りていないと感じ、ミルクを足してしまうことで生じる「続発性母乳分泌不全」が原因であるといわれています。どちらが原因の場合も赤ちゃんの体重の増えは悪くなります。

 一方「母乳不足感」とは、実際に母乳は不足しておらず、赤ちゃんの飲みや体重の増えも十分にもかかわらず、母乳に対するお母さんの自信が不足している状態を指します。助産師は、お母さんが母乳育児について正しい知識を持つことができるよう、「母乳不足」と「母乳不足感」をきちんと区別し、それぞれに対して適切な方法で支援していく必要があります。 


「母乳不足感」を抱く原因

 「母乳不足感」は、多くのお母さんの関心事の一つといわれています。お母さんが「母乳不足感」を抱く原因としては、表1にあるようにさまざまな理由が挙げられます。また、母乳育児についての科学的根拠に基づいた情報を得られていないことも原因の一つと考えられています。「赤ちゃんの体重が順調に増えている」「1回授乳をすれば次の授乳まで眠ってくれる」など客観的に見ても分かるような変化がない限り、お母さんはすぐに「母乳不足感」を抱きやすいといえるでしょう。

表1 お母さんが「母乳が足りない」と考える理由

【赤ちゃんの様子】

・赤ちゃんがよく泣く、母乳を飲み終わっても抱いていないと泣く。

・赤ちゃんが泣いてばかりで寝てくれない、もしくは長時間続けて寝ない(寝なくなった)。

・母乳を飲ませても、すぐにまた欲しがる。

・赤ちゃんが乳房をずっと離そうとしない。

・ミルクをあげたら、たくさん飲んだ。

・赤ちゃんが自分の指やこぶしを吸う。

・毎日排便がない(生後4~6週間以降)、もしくは回数が減った。

【お母さんの様子】

・母乳が薄くみえる。

・乳房が張らなくなった、もしくは前より柔らかい。

・母乳が漏れない(漏れなくなった)。

・ 搾ってもあまり母乳が出ない。

・  搾乳前や授乳中のオキシトシン反射のサインを感じない(感じなくなった)。

「母乳不足感」を抱くお母さんへの対応

「母乳不足感」を抱いているお母さんに対して、「体重が増えているので母乳は足りています」と伝えるだけでは不安を解消することはできません。表1のように、お母さんが「母乳不足感」を抱く時には必ず原因があるため、助産師はまずそれを把握し、その1つ1つに対して適切に情報提供を行っていく必要があります。

また、お母さんが「母乳不足感」を抱いている場合、不安からミルクを足してしまう可能性も出てきます。安易にミルクを足してしまうと、授乳によって乳房から飲みとられる母乳が減り、「母乳不足感」→「母乳摂取不足」→「二次性母乳不全」という負の連鎖が起こる場合もあります。そのため、母乳不足感への精神的支援(エモーショナル・サポート)も必要となります。お母さんが感じている不安や心配、戸惑いに耳を傾け、共感することが大切です。また表2や表3のサインのように、お母さんが自分で赤ちゃんの様子を観察し、母乳が足りているかどうか判断できるポイントを伝えてあげることも重要です。母乳が足りていることをお母さん自身が実感できれば、不安を感じることは少なくなるでしょう。

表2 母乳が足りているサイン 

・赤ちゃんが24時間に少なくとも8回は母乳を飲み、飲みたい分だけ飲めている。

・授乳中、吸啜のリズムは母乳が出てくるとゆっくりとなり、嚥下の音やごくごく飲み込む音が聞こえることもある。

・24時間に色の薄い尿で6回以上おむつを濡らす。

・24時間に3~8回の便をする。生後4~6週間以降は排便回数が減り、1回量が増えることもある。

・赤ちゃんが生き生きとしていて筋緊張がよく、皮膚の状態も健康である。

・授乳と授乳の間は満足している様子である。

・1日平均18~30gの割合で体重が着実に増えている。

・身長、頭囲が大きくなっている。

・着ている服が小さくなっていく。

表3 母乳不足を疑うサイン

・1日の授乳回数が8回以下である。

・尿の回数が少なく、濃縮された色をしている。

・便の量が少なくなる。

・母乳以外のものを飲ませている。

・おしゃぶりを使ってなだめている。

・赤ちゃんがおとなしい、または眠りがち。

・体重が減り続けているか、横ばいが続いている。

・授乳がほぼ毎日40分以上ある、10分に満たない、12回以上あるなど、有効な吸着・吸啜ができていない様子がある。

特に不安が強いお母さんに対しては、乳汁産生を増加させる方法(表4)を伝えてあげることも効果的です。お母さんが「母乳不足感」から授乳にストレスを感じてしまっている場合には、直接授乳にこだわらず、搾乳した母乳を飲ませるという方法もあると説明するのも良いかもしれません。

表4 乳汁産生を増加させる方法

1.射乳反射を起こしやすくする方法

・温かく濡らしたタオルを授乳の数分前に乳房にあてる。

・授乳前や授乳中に乳房マッサージをする。

・ストレスを和らげる。

・リラックスできる音楽を聴く。

 

2.乳汁産生を増加させる方法

・授乳回数を増やす(1日に少なくとも8回以上授乳する)。

・赤ちゃんが吸いついたまま眠ってしまった場合は、乳房の圧迫を行い、赤ちゃんが飲みとる量を増やす。

・授乳後に搾乳をする。

*これらを行うことによって母乳の飲み残しを減らし、新たな乳汁産生を刺激する。

 さらにお母さんは、産後1か月までの間に母乳不足感を抱きやすいともいわれています。そのため、退院時の説明にプラスして、赤ちゃんの体重の増えや乳房の状態など授乳に関連した不安や疑問がある場合には、出産した産院や市町村の助産師に気軽に相談するように伝えていきましょう。


 「母乳足りているんですかね。」「ちゃんと飲めているのかな。」といった言葉は、私たち助産師がお母さんと接する際には必ずと言ってよいほどよく聞かれる言葉だと思います。それほど母乳育児を行うお母さんは不安を感じやすいのです。しかし、お母さんが「母乳不足感」を感じるのは、我が子に対して愛情をもって接している証拠でもあります。女性のマタニティサイクルに最も密接に関わる助産師だからこそ、お母さんの不安や疑問に対して、根拠に基づいて正しい情報を提供することが求められています。お母さんが自信を持って母乳育児に取り組めるように、出産直後から継続的に支援していくことが将来的に「母乳不足感」を抱くお母さんを減らすことにもつながると考えます。

参考文献

・母乳育児支援講座 水野克己・水野紀子著 南山堂

・母乳育児支援スタンダード 第2版 NPO法人日本ラクテーション・コンサルタント協会(JALC) 医学書院

・厚生労働省 平成27年度乳幼児栄養調査

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000134207.pdf

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