羊水過多の原因は?助産師が知っておきたい妊娠・分娩期のケア
- 分娩介助
- 管理入院
- 羊水量の異常
羊水過多は、羊水の量が過剰に増加する状態を指します。通常、妊娠20週から35週にかけて羊水の量は500ml程度ですが、羊水過多は2000ml以上に達することもあります。羊水は、胎児が胎内で成長・発達していくために必要なスペースを提供しています。胎児が自由に動ける十分なスペースは、手足を曲げたり伸ばしたり動かしながら筋骨格系の発達を助ける作用があります。また、外部からの衝撃を和らげ、胎児を保護するクッション効果があります。そのため、羊水が「増える、多くなる」ということは、胎児が子宮の中で自由に動いて浮遊できるスペースが増えるため一見、胎児の成長発達を促すように思えます。しかし、羊水過多は胎児による羊水の吸収や産生に異常が起き、循環のバランスが崩れてきている証拠です。羊水過多になると、母体への身体的影響や母児ともに合併症も起こりやすく、分娩時にも多くのリスクが伴うため、綿密な観察と迅速な対応が求められます。羊水過多における病態生理を理解し、管理入院における看護のポイントと分娩時の注意点と対応について詳しくみていきましょう。
羊水過多の病態生理
1)診断
超音波検査で羊水量の測定を行い診断します。羊水指数(AFI:Amniotic Fluid IndexI)が24㎝以上、または最大羊水深度(MVP:Maximum Vertical Pocket)が8㎝以上のとき羊水過多症と診断されます。
2)原因
①胎児側の異常
食道閉鎖症や十二指腸・小腸上部など消化管の閉鎖や狭窄による嚥下障害のため、胎児が羊水を飲み込むことができず、羊水の吸収が減少することによって羊水量が増え続けます。また、水頭症や二分脊椎などによる神経管欠損や染色体異常では、抗利尿ホルモンの分泌不全により羊水量の産生が多くなります。
②母体側の要因
糖尿病合併妊娠や妊娠糖尿病により、胎児が高血糖となり、胎児尿が過剰に産生されることが原因です。一卵性双胎では双胎間輸血症候群(TTTS)となり、受血児の腎血流量が増大するために、羊水過多となります。またRh因子不適合などにより胎児貧血が起こると、心拍出量が増加し羊水の産生量が多くなります。
③原因不明
羊水過多の多くは、特定の原因が見つからないことも多く、約6割が原因不明です。
管理入院時の看護のポイント
羊水過多の治療は、症状の重症度や原因に応じて異なります。基本は入院による安静になりますが、軽度の場合は外来管理で、定期的に超音波検査で羊水量を経過観察していくこともあります。羊水過多では、前期破水や切迫早産のリスクが高まるため、これらを予防しながら、妊娠継続できるように治療管理をしなければなりません。
胎児管理
胎児心拍を定期的にモニタリングし、胎児の健康状態を評価します。十二指腸閉鎖症による羊水過多の場合は、ダウン症を合併する可能性もあるので、その他の異常がないかも超音波検査で確認していくようになります。また、糖尿病による羊水過多では、児が巨大児になりやすいため、児の推定体重も定期的にチェックし、胎児発育曲線を上回っていないか観察していきます。
母体の治療と看護
①腹部増大、圧迫に伴う身体的症状への看護
腹部の増大により横隔膜が圧迫され、呼吸困難の症状や、腹部・胃部の違和感や圧迫感によって、悪心や嘔吐がみられることもあります。本人の希望を聞き、食事を分割食などにして、少しずつ栄養が摂取できるようにしましょう。また、腹部の圧迫により下肢の血流が悪くなるため浮腫や疼痛を引き起こしたり、静脈瘤を形成することがあります。他にも膀胱圧迫による頻尿や排尿障害などが起こることもあります。浮腫や頻尿によって、水分摂取を制限する方もいますが、過度な水分制限は血栓のリスクも高まります。水分制限がない場合は、水分はしっかり摂ってもらいましょう。浮腫の予防には、下肢を軽く拳上して休めるようにしたり、弾性ストッキングを医師の指示に従って装着します。体重管理も羊水の急激な増加の有無を判断したり、母体の浮腫や循環状態の指標になるため、体重測定も必要な観察項目になります。このように羊水過多は、母体への身体的影響が多くみられるため、これらの症状が少しでも軽減できるようなケアが求められます。
②切迫早産・前期破水のリスクに対する看護
羊水過多は、子宮の過度な膨張や伸展により子宮収縮が起こりやすくなるため、切迫早産や前期破水のリスクが高まります。切迫早産を合併した場合は、安静の上で子宮収縮抑制剤を使用し、妊娠継続が図れるようにします。子宮収縮抑制剤を使用すると、副作用の動悸が出現することもあるので、羊水過多による呼吸困難と合わせ、バイタルサインの変化にも注意を払いましょう。
③糖尿病による羊水過多への治療
糖尿病による羊水過多であれば、食事管理と血糖測定やインスリンを導入した血糖コントロールを行う必要があります。
④羊水除去
切迫症状や妊婦の呼吸困難などの症状が強い重症の場合は、羊水穿刺を行い羊水量を減少させる処置を行うこともあります。羊水除去を行う場合、出血や子宮内感染、前期破水、常位胎盤早期剥離などのリスクがあります。これらのリスクに備えた上での治療が望ましいため、ルートキープを行い、バイタルサインに注意しながら、羊水穿刺の介助にあたります。羊水除去のあとは、NSTモニターを装着して、切迫症状の有無と胎児の健康状態を確認しましょう。
患者教育・説明と心理的サポート
①治療に対する説明と教育
まずは患者に対して羊水過多の状態やリスク、治療法についての説明を行います。切迫早産や前期破水のリスクが高いため、安静を保つ必要性を説明し、腹部の張りなど変わったことがあれば、ナースコールをしてもらうようにしましょう。胎動の減少がある場合も伝えてもらうようにします。母体の糖尿病が原因の場合は、糖尿病の治療が必要となるので、治療食を守ってもらうことや、正しく血糖測定やインスリンの自己皮下注射が行えるよう指導します。
②心理的サポート
羊水除去を行う場合、穿刺によるリスクや腹部に針を穿刺するため妊婦の緊張や不安が強くなることも予測されます。処置前後を通して、今からどうするのかなど手順を伝えたりして、妊婦の緊張が軽減されるように努めましょう。羊水過多が胎児の先天性疾患によるものであった場合は、胎児の予後や出生後の手術の必要性や検査についての説明もあるため、胎児に関する不安や心配も募りやすいです。また妊婦自身も羊水過多による身体的な辛さから日常生活自体に困難や支障が生じたり、その身体的負担や入院安静によって精神的ストレスを抱いていることもあります。心配や悩み、苦痛を表出できるような関わりと入院生活を少しでも安楽に過ごせるような工夫が重要になってきます。
分娩時の看護のポイント
羊水過多の分娩時には、母児共に多くのリスクが伴いやすく、周到な準備と綿密な観察、迅速な対応が求められます。分娩に関わる医療チーム全体で協力し、母児の安全を最優先にしたケアを提供することが重要です。
胎児の管理
CTGにおける胎児のモニター管理はもちろん必須です。羊水過多では、胎児が子宮内で浮遊し可動性が大きいため、臍帯巻絡や臍帯下垂、回旋異常、胎勢・胎位異常を起こしやすいです。特に破水時は、臍帯脱出の有無や胎位の確認を行い異常があれば、すぐに帝王切開を行えるようにしなければいけません。分娩後は、すぐに新生児の健康状態を評価し、必要に応じて新生児集中治療室(NICU)への移送ができるように連携をとっておきましょう。
母体の管理
①子宮の過伸展におけるリスク
羊水過多によって子宮が過伸展しているため、分娩時は微弱陣痛や遷延分娩、分娩後は子宮復古不全による弛緩出血が起こりやすいです。これらのリスクがあることを踏まえて、あらかじめ準備を整え、分娩時のケアを提供するようにしましょう。
②巨大児のリスク
糖尿病による羊水過多は巨大児の可能性もあるので、CPDがないかを確認し、分娩方法を考慮します。経腟分娩ができる場合は、肩甲難産に気をつけましょう。
③破水時のリスク
母体においても、破水時は特に注意が必要です。もともと子宮内圧が高いため、羊水が母体の血中に流入し、羊水塞栓症を引き起こすリスクがあります。また破水により、子宮内圧が急激に減圧された場合は、胎盤付着部位の子宮壁が大きく収縮するため、常位胎盤早期剥離を起こす可能性があります。常位胎盤早期剥離や臍帯脱出を防ぐために、注射針を用いて破膜し、徐々に羊水を流出させる方法をとることもあります。子宮内圧の急激な変化などは、バイタルサインにも影響するため、こまめに観察していきましょう。異常があれば適切な医療介入で即座に対応できるように、環境、人員は整えておいた上での分娩が望ましいです。
羊水過多は妊娠中から分娩まで母体と胎児にリスクを伴う可能性があり、双方への綿密な観察とリスクを考慮した適切なケアや準備が重要です。特に母体は羊水過多による身体的、精神的苦痛やストレスが加わりやすいです。不安や心配を全て拭うことは難しいかもしれませんが、それらを表出できる助産師がいることは、安心して安全に治療を受け、妊娠継続をしていくことに繋がります。羊水過多は原因にもよりますが、適切な管理と治療が行われれば、母体と胎児の安全性を確保できる可能性が高いです。胎児の健常性の評価、観察はもちろんのこと、母体への心理的なサポートにも重点をおいて、関わることができるといいでしょう。
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