【助産師必見】妊産婦のけいれん対応マニュアル
- 全ステップ解説
- 妊産婦のけいれん対応
- 子癇発作
妊産婦のけいれんへの初期対応は、実は妊産婦の全ての急変対応と一致しています。そのため一度身についてしまえば、全ての初期対応に精通できるということです。妊産婦の急変は、母体だけでなく胎児の予後も左右する一刻を争うような状況ですよね。どんな熟練のスタッフでも内心では焦ったり緊張したりします。どのような心理状態であっても、患者さんの正しい知識を身につけ母児を救命できるように、一緒に復習していきましょう。
妊産婦のけいれん対応STEP6
妊産婦のけいれん発作時の対応の流れは、次のSTEP6に集約されます。
STEP1:スタッフ・ドクターコール
STEP2:OMI 母体救急処置
STEP3:胎児心拍モニタリングと分娩方針
STEP4:抗けいれん薬治療
STEP5:緊急降圧の必要性を考慮
STEP6:神経学的評価
けいれんの原因は様々ですが、原因が何であれけいれんがおきると生命維持のサイクルが一瞬で悪化します。J-CIMELSでは原疾患に関わらず初期対応に大きな違いはなく、初期段階から脳へのダメージがないように対応する必要があるとされています。
STEP1:スタッフ・ドクターコール
STEP1:スタッフ・ドクターコール。まずはとにかく人員確保です。同時に救急カートとAEDを依頼します。その時、発見者は絶対にその場を離れず、けいれんの持続時間や発作の症状の観察をします。転倒転落にも注意を払いましょう。
パンダ先輩
コマンダー、実働部隊、記録係の役割分担も行おう。役割を明確にすることで、効率的に処置が進むよ。また、緊急時に起こりやすいコミュニケーションエラーも少なくなる!
STEP2:OMI 母体救命処置
OMIとは「O」酸素、「M」母体のモニタリング、「I」静脈路の確保のことです。
応援要請をした後は、このOMIを意識して動きましょう。
まず「O」の酸素。
けいれんを起こすと低酸素血症に陥りやすいため、組織や臓器、胎児へ1秒でも早く酸素を送る必要があります。できるだけ高濃度酸素を送与するために、リザーバーマスクを使用して10L/分以上で投与を開始します。けいれん時のバイトブロックは誤嚥のリスクがあるため使用しないようにしましょう。また気道確保を行い、必要に応じて口腔内吸引や側臥位への体位変換を行い、誤嚥予防に努めます。
次に「M」のモニタリングです。
母体の血圧、Sp02値、心拍数、呼吸数をモニタリングします。
モニタリングを行う目的は、経時的な状態変化を捉えやすくすることと、初期処置や今後の治療への反応を確認するためです。
特にけいれんでの薬剤使用時は2~5分間隔でチェックを行い、薬剤量の調節も行う必要があります。その際バイタルサインは非常に重要な指標となるので、声にだしてスタッフ間で共有しましょう。
脈拍や心拍が確認できない場合は、胸骨圧迫を開始しAEDを装着します。
最後に「I」の静脈ルート確保です。
けいれん時に静脈ルートが確保されていない時は、肘静脈でもいいので18-20Gで静脈路を確保します。けいれん発作持続中でルートキープが困難な場合は、発作がおさまってからルート確保に努めます。
パンダ先輩
ここまでの対応ができたら、次からけいれんの治療と鑑別だよ!
STEP3:胎児心拍モニタリングと分娩方針
NST(CTG)モニターで胎児の状態を評価し、早期の娩出をはかります。
けいれん発作時は酸素供給が滞り胎児機能不全に陥りやすいため、胎児の健康状態の評価は必ず行いましょう。母体の状態が安定したら胎児の状態と合わせて適切な分娩方針を考えます。
一次施設においては、けいれん発作が起こった時点で高次医療機関への搬送がベストですね。
胎児除脈が10分以上持続する場合は常位胎盤早期剥離を疑って、急速遂娩も考慮する必要があります。
STEP4:抗けいれん薬治療 主にジアゼパム、硫酸マグネシウムの投与
ここからは医師の指示のもとで薬剤投与を行います。
知っておけば次に行われる処置の予測が立てられ、医師の指示にもスムーズに対応できるようになります。
けいれん発作が5分間以上おさまらない時は、即効性のあるジアゼパムが第一選択です。セルシンやホリゾン5㎎(0.5A)、まず初回は静脈内に投与します。効果がなければ、けいれんがコントロールできるまで5分毎に再度5㎎を静脈注射していきます。ただしけいれん発作によりルートキープできない場合は、先に10㎎(1A)を筋注投与し、けいれん発作が落ち着いてからルート確保を行います。
ジアゼパムは呼吸抑制をきたすため、バッグバルブマスクなどの人工用手呼吸ができるスタッフがいる状態で使用することが望ましいです。
子癇発作の場合、再発予防の第一選択薬は硫酸マグネシウムです。硫酸マグネシウムはけいれんを止めるためではなく、子癇発作の再発予防で投与されるというところがポイントです。
しかし、最初のけいれん発作の段階で子癇発作か他の疾患かを鑑別することは困難です。そのため脳へのダメージを最小限にするために、子癇を想定してマグセントを開始することが望ましいとされています。
投与方法はマグセント100mlを開始20分間120ml/hでボーラス投与し、その後10ml/hで持続投与することが推奨されています。
またその後の分娩中も硫酸マグネシウムは中止せず、分娩後24時間まで投与を継続します。硫酸マグネシウムの持続投与中は、高マグネシウム血症にならないよう注意が必要です。
STEP5:緊急降圧の必要性を考慮
血圧が160/110mmHg以上で高血圧重症域の場合は、速やかに降圧治療を開始することが必要です。ヒドララジンは頭蓋内圧上昇作用があるため、産科ではニカルジピンを使用することが多いです。ニカルジピン塩酸塩の場合は10㎎を生食もしくは5%ブドウ糖液100mlで希釈します。速度は0.5~6㎍/㎏/分、体重が60kgなら20ml/hです。さらに緊急降圧したい場合は、ニカルジピン原液をシリンジポンプで投与開始する場合もあるため、覚えておいてください。
パンダ先輩
ただし硫酸マグネシウムと同時に使用する場合は注意が必要。予想以上に血圧が下がることがあるよ。急激な降圧は、逆に胎児状態を悪化させてしまうかもしれません。血圧の目標値が140-159/90-109mmHgになるよう降圧しよう!
STEP6:神経学的評価 鑑別診断のために神経症状の観察
意識レベルはJCS、GCS、AVPUのスケールを用いて評価します。少しでも「意識レベルがおかしい」と感じたら、胸骨をグリグリと圧迫し、痛み刺激の反応を確認・評価しましょう。
脳神経の異常の疑いがある時は顔面非対称、四肢運動の左右差、構音障害の3つの所見の観察をします。一つでも当てはまれば脳卒中の可能性が高いです。その他、手足のしびれや麻痺、頭痛や嘔吐、目の瞳孔径や対光反射の左右差も観察しましょう。
低血糖によるけいれんの場合もあるため、代謝疾患を否定してから頭部CTなどを行います。
以上、妊産婦けいれん時の一般的な対応についてまとめてきました。上記の内容は産婦人科診療ガイドライン産科編やJ-CIMELS公認の母体急変時の初期対応を参考にしていますが、施設ごとの決まりに沿って対応しましょう。使用が予測できる薬剤の管理、投与法や搬送基準などはあらかじめ確認しておきましょう。
また急変時はチームワークが重要なので施設全体でシミュレーションや勉強会を通して、けいれん発作時や急変時の対応をスムーズにできるよう備えていきましょう。
参考文献
産婦人科診療ガイドライン産科編2023
J-CIMELS公認講習会ベーシックコーステキスト 産婦人科必修 母体急変時の初期対応 第3版
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