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分娩期
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【明日から使える】吸引分娩の基本と注意点|分娩介助技術を磨こう

  • 分娩介助技術
  • アセスメント
  • 急速遂娩
SUMMARY
この記事でわかること
吸引分娩は微弱陣痛や母体疲労などで分娩第2期が遷延した時や、赤ちゃんの心音が下がった時に急速遂娩として行われるため、頻度としても割と多い医療処置になります。吸引分娩は適切に行えば、危険な処置ではなく、母児が安全に分娩を終えるために必要な処置になります。しかし、適応や判断を誤ると医療事故、訴訟にもつながりかねず、産科医療補償制度にも再発防止に関する報告書として吸引分娩についての事例報告が掲載されています。ここでは「産婦人科診療ガイドライン産科編2023」などを参考にして安全に吸引分娩を行うための基礎知識を一緒に学んでいきましょう。

吸引分娩は赤ちゃんの頭はすぐそこにあるのになかなか進んでこない、また赤ちゃんの心拍が低下して危険な状態の時に速やかに児を娩出したいときなどに行う医療処置です。吸引分娩は医師が必要と判断した時に行う緊急処置であり、助産師は器械を用いた分娩は行えません。しかし、助産師として吸引分娩の適応の是非、吸引分娩を行う際の観察視点や介助技術を適切なものにし、安全に分娩が終了するよう医師とともに協同していくことが大切です。

1.吸引分娩の原理

吸引カップに陰圧をかけることで胎児の頭部に吸引カップを吸着させ、骨盤誘導線に沿ってカップの柄を牽引することで児を娩出させます。

2.吸引分娩の種類

金属カップ(ハード)とシリコン製カップ(ソフト)の2種類があり、大きさもそれぞれ大・小あります。牽引力は金属カップ、装着の容易さや速さの点ではソフトカップが優れています。臨床では金属カップの方が多く使用されています。 近年は、片手で簡単に操作できるディスポーザブルタイプの吸引カップ(アトムメディカル:キウイ吸引娩出カップ オムニカップ)を用いることもあります。

3.吸引分娩の適応

1)胎児機能不全

胎児心音が低下した場合は急速遂娩が必要となるため、吸引分娩を行う条件に当てはまれば、吸引分娩にて児の早期娩出をはかります。急速遂娩が必要となっても、吸引分娩の条件に当てはまらない場合は、緊急帝王切開を行います。

2)分娩第2期の遷延、停止

分娩第2期が初産婦で2時間以上、経産婦で1時間以上経過した時、または分娩進行がみられず停止している場合は、吸引分娩を行う診断の目安になります。分娩第2期が遷延する背景には、長時間の陣痛による母体疲労で自分の力だけではいきめなかったり、母体疲労から微弱陣痛となって娩出力が低下してしまうということがあります。分娩第2期が遷延していても、母体の体力や有効な陣痛があり、胎児の健常性が保たれていれば、基準時間を超えていても経過観察を行い分娩進行をみていくこともあります。

3)分娩第2期の短縮が必要な場合

母体に著しい疲労がみられたり、心疾患や高血圧などの合併症がある場合は、母体の命を守り、症状を憎悪させないために吸引分娩を行います。

4.吸引分娩の条件

1)妊娠34週以降であること

頭蓋内出血を懸念した週数とされていますが、安全な下限週数は不明です。34週未満でも緊急対応として、帝王切開より吸引分娩が適切な場合もあります。

2)子宮口全開大で破水していること

子宮口が開大していない状況での吸引分娩は、頚管裂傷などを起こし、出血が増える可能性もあります。子宮口が全開大している状況下で吸引するのが望ましいです。

3)児頭が嵌入している

ステーション0以下、坐骨棘の高さまで児頭の先進部が下降した状態を指します。むやみに高いステーションからの吸引娩出術は牽引回数や牽引時間の増加につながり、児へのストレスも強くなるため胎児機能不全に陥るリスクがあります。吸引娩出術を行う際は、成功が見込める位置まで児頭が下降するのを待ってから行います。児頭の下降がみられない場合は、無理に吸引分娩を行わず帝王切開を行うことが望ましいです。

5.吸引分娩する際の注意点

1)胎児心拍モニタリングを行う

吸引分娩中は子宮胎盤循環の悪化や児頭下降による臍帯圧迫などにより、胎児への酸素供給量が減少し、胎児心拍数パターンが悪化することがあるので、胎児心拍モニタリングの観察は必須です。

2)母体の直腸と膀胱は空虚にする

吸引分娩を効果的にするためにも、膀胱と直腸は導尿や適便によって空虚にし、児頭が産道をスムーズに通れるようにしておきます。

3)牽引は陣痛発作時に行う

陣痛の怒責による娩出力と吸引娩出術による牽引が有効に働く必要があるため、牽引は陣痛の発作時に行います。

4)総牽引時間と牽引回数

吸引カップ初回装着時点から複数回の吸引牽引終了までの時間が20分を超えないようにします。また滑脱回数も含め、総牽引回数は5回までです。 したがって、吸引娩出術を開始して牽引回数が5回以内で20分以内に娩出できると判断されるときに吸引娩出術を行います。十分な吸引牽引にも関わらず児頭下降が認められなかったり、滑脱を繰り返して、回数や時間を超えそうな場合には吸引娩出術に固執せず可及的速やかに帝王切開に切り替えなければなりません。また、吸引娩出術をする医師の習熟度や人員、施設の状況を考慮して、吸引分娩時は帝王切開術がすぐに行えるようにダブルセットアップで行えるとよいでしょう。吸引分娩での児の娩出が可能か否かを適切に判断し、困難であれば早期に吸引分娩を断念することで、母体や児の合併症を防ぐこともできます。介助についてる助産師や外回りの助産師は、いつ吸引分娩を始めたか、何回目の吸引かをカウントしながら、医師に伝え、安全な範囲での吸引分娩を行えるとよいでしょう。

5)会陰切開は不要と判断された場合以外、実施する

自然な陣痛の分娩であれば、児頭の下降により会陰が徐々に伸展されますが、吸引分娩では十分な会陰の伸展がないまま分娩をすることになります。会陰が伸展していないまま吸引娩出術を行うと、児頭が娩出する際に会陰の裂傷が深くなったり、Ⅲ度もしくはⅣ度裂傷になる場合があります。会陰の損傷を最低限にし、吸引した際に児をスムーズに娩出できるように、不要な場合以外は会陰切開を実施します。分娩後は経管裂傷を含めた産道裂傷がないかを確認しましょう。


6)新生児蘇生の準備

吸引分娩を行う際は、緊急帝王切開になるリスクがあること、また吸引分娩によって胎児への酸素供給量が不足することもあるため、新生児蘇生が必要となる可能性を念頭においておく必要があります。そのため、吸引分娩を行う前には吸引分娩を行う旨を新生児の担当や小児科医師、NICUへ連絡し、新生児蘇生が行えるように応援要請をします。そして、人員や物品を整えた上で吸引分娩を開始しましょう。また、出生後も児が血腫などを起こすリスクがあるため、吸引分娩で出生した児は一定時間は注意深く観察する必要があります。

7)記録

医師の診療録には吸引娩出術の適応と要約、吸引娩出術開始時の児頭下降度・回旋の状態、吸引の実施回数を記入します。5回を超えたらその状況も詳細に記載しなければいけません。また産道裂傷、会陰切開の有無と程度、児の分娩損傷の有無を記載しますが、助産録にも同じように吸引分娩に至った経緯、適応、患者への説明、反応など診療録と同様の記録を行います。


6.吸引分娩時の介助のポイント

1)産婦への説明、声かけ

吸引分娩を行う時は、緊急を要することが多いですが、実施する前には産婦に吸引分娩が必要なことを口頭で説明し、承諾を得ます。また児頭に器械を装着し牽引すること、切開、裂傷が大きくなり出血が増えるなど母児へのリスクがあることも説明しておきます。そして、吸引娩出術を行っている間は、怒責による娩出力と牽引の効果が最大限となるように、産婦の姿勢や呼吸を整え、発作時のタイミングを合わせられるように誘導します。

2)吸引分娩時の会陰、肛門保護

医師が吸引娩出術を行う時は、助産師は邪魔にならない立ち位置(産婦の右側より)で、肛門保護を続けます。牽引によって児頭が発露したら、すぐに会陰保護に切り替えます。児頭の進行具合や娩出力の状況を観察しながら、児頭が第3回旋を始めるのを目安に牽引を弱めて吸引カップをはずしてもらい、すかさず児頭に手を当てます。その後は自然の娩出力に任せ、急速に娩出しないよう怒責をコントロールしながら、裂傷が最小限になるよう児を娩出します。医師は児頭の下降具合を見ながら牽引していますが、助産師は保護をしている手で娩出力や児頭が下降する圧を感じとりながら、医師と牽引具合の調整をはかれるとよいでしょう。

また、吸引分娩と同時に子宮底圧迫法(クリステレ胎児圧出法)を補助手段として行うこともあります。子宮底圧迫法は子宮破裂のリスクもあり、実施の適応は吸引分娩と同様です。子宮底圧迫法を行うときは医師が行う子宮底の圧迫に負けないように、産婦も怒責をかけれなければいけません。圧迫をかけられても、できるだけ同じように怒責をかけるように説明すること、そして陣痛発作に合わせて、牽引、圧出が実施できるようタイミングを合わせていきます。子宮底の圧出をしている医師には、会陰部が見えていません。圧出によって、児が飛び出してこないように児頭が下降してきたら早めに圧出を終了するように伝えましょう。吸引分娩時は医師とのコミュニケーションも重要なポイントです。

3)分娩台での新生児蘇生

吸引分娩では新生児仮死を起こすリスクもあります。児娩出後すぐに筋緊張が弱くぐったりしている、また第一啼泣がみられない時などは、すぐにインファントウォーマー上で新生児蘇生が行えるようにしなければいけません。新生児仮死がある時は刺激をしながら羊水を素早くふき取り、臍帯クリップはせず新生児の臍帯を長めにとってクランプ、切断しインファントウォーマーへすぐに移れるように処置を進めましょう。

7.吸引分娩のリスク

1)母体へのリスク

自然な陣痛での分娩ではなく、会陰がしっかり伸展していない状況でのお産になるため、母体の会陰裂傷や産道の損傷が激しくなったり、血腫を起こすことがあります。しかし、母体への影響はそれほど大きくはなく、会陰切開など傷の痛みは鎮痛剤でコントロールできます。血腫ができた場合は、ペンローズドレーンによって出血を排出させ、血腫の消失を待ったり、もしくは手術で血腫除去術を行うこともあります。その際は出血により貧血になることもあります。

2)児へのリスク

吸引分娩による児へのリスクは頭皮損傷、頭血腫、帽状腱膜下血腫、頭蓋内出血があります。頭皮損傷は吸引カップによって頭皮に損傷を及ぼすことがあります。頭血腫は骨膜下に起こる出血で致命的ではなく、治療が必要なものではありません。数週間から数ヶ月で自然に消失します。帽状腱膜下血腫は帽状腱膜と骨膜の間に存在する導出静脈の破綻により血腫ができ、眼窩上縁から頂部までの広範囲に広がります。こぶになっている血腫に対しては、経過観察で自然に吸収されるのを待ちます。出血が大量な場合は、輸血やショックに対する治療が行われます。早期発見が重要なので、生後6時間以内に発見できれば、重大な合併症を防ぐことができます。吸引分娩をすると発生頻度はあがり、適切な吸引分娩でない場合はさらに確立があがります。頭蓋内出血は吸引分娩そのものよりも胎児低酸素血症に基づくものが多いとされています。鉗子分娩、帝王切開においても頻度は変わりません。後遺症の危険性もあるため、異常が疑われる時はCTやMRI検査を行います。いずれも出血によって、高ビリルビン血症を起こして病的黄疸を来たす場合があります。


分娩では母児が共に安心して安全にお産を終えることが目標です。妊娠の経過が良好でリスクがなくても、吸引分娩が必要となったり、緊急帝王切開に切り替わることもあります。その時々で専門的なアセスメントを適切に行う力とその判断に添った行動が求められます。正しい知識を習得して、吸引分娩時の観察と看護を行い、医師とともに安全に吸引分娩を遂行できるようにしていきましょう。

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