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産褥期(育児)
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2024

【現役助産師に聞いた】有益すぎる産後の退院指導 完全版|明日から使える具体的な内容

  • 退院後の生活
  • 指導内容
  • 現代社会の問題
SUMMARY
この記事でわかること
助産師は退院指導において、母親とその家族に対し産後の過ごし方などの知識を提供する役割を果たします。出産後の母親が退院後、安心して育児に専念できるために必要な指導とは何か?孤立しがちな育児環境、インターネットの情報の多さによる混乱など現代社会の背景を踏まえて、助産師はどのようにこれらの問題に対処し、母親とその家族を支えていくのか? この記事では、産後の退院指導の基本と重要性、そして現代社会の問題点とそのニーズに応えた新たな指導内容について詳しく説明しています。

保健師助産師看護師法の第三条に〈「助産師」とは、厚生労働大臣の免許を受けて、助産又は妊婦、じょく婦若しくは新生児の保健指導を行うことを業とする〉と規定されているように、助産師の業務の大部分は保健指導を行うことでもあります。その中のひとつである産後の退院指導は、母親と新生児が自宅で健やかに過ごせるための大切な保健指導です。

産後の生活の注意点や新生児の特徴などを説明する退院指導ですが、皆さんは病院のパンフレット通りになっていたり、いつも同じ指導内容になっていませんか?

妊娠・出産という大きな出来事を乗り越えた退院直後の母親は、身体的にも精神的にも不安定な状態にあります。加えて、現代社会は、核家族化や情報過多、職場復帰のプレッシャーなど、産後の母親を取り巻く環境は、ますます複雑化しています。そのため、サポートの不足や育児の知識が十分でないまま、新しい生活を迎える母子も少なくないのが現状です。そのような背景の中で、助産師が行う退院指導は、産後の母親がそれぞれ抱える現実的な課題に対して、具体的な指導方法と支援策を提案する必要があります


1.退院指導の基本的なポイント

1) 母体の健康管理

産後の女性は、出産による身体的負担からの回復が必要です。出産後の体のダメージは交通事故と同じレベルと表現されるほどです。そのため退院指導では、体に負担のない産褥期の過ごし方や体やホルモンバランスの変化についての説明をします。妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病など合併症のある方は、食事や血圧管理、血糖コントロールの必要性と、憎悪した場合は連絡をするなどの内容を指導します。また、産後うつやメンタルヘルスについても触れ、必要があれば専門家への相談を促します。

2) 授乳指導

   母乳育児は赤ちゃんの健康にとって非常に重要ですが、母乳育児が確立するまでは期間を要し、難しいことも多いです。どうしたら授乳が軌道にのるか、乳房のセルフケアや正しい授乳姿勢、母乳不足への対応方法など、一人一人に応じた具体的なアドバイスを行います。混合栄養やミルク育児であれば、母児に合わせたミルクの補充方法や増量の目安なども指導が必要です。また、母乳育児に関する不安や悩みを受け止め、母乳外来でのケアなど退院後のフォローを提供することが大切です。

3) 新生児のケア  

   新生児のケアについては、沐浴方法、へその緒のケア、適切な睡眠環境の整え方、室温・湿度管理などが含まれます新生児の生理的な特徴(生理的体重減少、黄疸、便の性状、レンガ尿、中毒疹など)にも触れていきます。特に新生児は免疫力が低いため、手洗いやうがい、家族の予防接種など感染症予防に関する注意事項も指導します。また、赤ちゃんの体重増加や便・尿の回数、皮膚の観察など、健康状態のチェックポイントも説明します。

4) 家族サポートの重要性 

   出産後、母親だけでなく家族全体が新しい生活に適応する必要があります。父親をはじめとする他の家族に対しても、母児へのサポート方法を伝えることが重要です。退院後の主なサポートや家族の状況をもとに、育児における父親の役割や、家事の分担、夜間のサポートはどうするかなどについて具体的にアドバイスをします。


2.現代社会における産後の生活の問題

1) 核家族化と育児の孤立

現代社会では、出産年齢の高年齢化によりサポートしてもらう両親も高齢化していたり、核家族化が進行して、以前のように家族や親戚からのサポートが必ず得られるということが当たり前ではなくなってきています。かつてあったような、隣近所や地域との横のつながりも希薄となっています。そのため、出産後の母親が、満足なサポートを得られず孤立しやすい状況にあります。
また、日常の中で赤ちゃんや小さな乳幼児との生活を身近に感じる機会は少なくなりました。乳児と初めて触れ合うのは、自分の子どもを抱っこする時という母親や父親も多くなっています。そのため、初産婦の母親にとっては育児に対する知識や技術不足による不安が募りやすいです。経産婦の母親もまた、上の子の育児に追われるなど負担が生じやすいです。いずれにしても、サポート不足による家事・育児の負担と両立、ワンオペ育児といったストレスが増大しやすいです。多くの母親が育児をはじめとするすべての責任を一人で担わざるを得ず、心身ともに疲弊するリスクが高まるといえます。

2)産後うつとメンタルヘルスの問題

産後のホルモンバランスの変化や睡眠不足だけでなく、慣れない育児へのプレッシャーやサポート不足も相まって、産後うつやメンタルヘルスの問題を生じることが多くなっています。特に、育児が孤立化し周囲に相談できる人が少ない場合や、入院中のマタニティーブルーの症状が改善されないまま退院するとメンタルヘルスが悪化するリスクが高まります。早期に適切なサポートが得られないと、母親の健康だけでなく、その後の育児や家族全体の生活にも影響を及ぼす可能性があります。精神疾患を含めた合併症妊娠や社会的ハイリスク妊産婦も増加しており、退院したあとも地域につなげて支援していくことが必要になってきています。

3)インターネットによる情報過多

インターネットの普及により、母親たちは育児に関する情報を容易に入手できるようになりました。しかし、情報が多すぎてどれが正しいのか判断に迷ったり、他の母親と自分を比較してプレッシャーを感じたりすることが少なくありません。このような状況は、育児に自信を持てなくなり、ストレスを増幅させる要因となっています。

4)職場復帰のプレッシャー

働く母親が増加する一方で、育児休業後の職場復帰に対するプレッシャーや自身のキャリア形成との兼ね合いが大きな問題となっています。職場復帰するためのいわゆる「保活」や、復帰予定の時期に実際に保育園に入れるのかといった問題も抱えるようになります。特に、職場復帰後の仕事と育児を両立するためのサポートが不十分である場合、母親にとっては大きな負担となります。復職前からこのようなプレッシャーを感じることで、産後うつのリスクが高まることもあります。

3.退院指導の追加内容と指導のポイント

1)行政支援の活用とサポートネットワークの構築

育児の孤立を防ぐために、ソーシャルサポートなどの情報提供をしていきましょう。

 ・自治体によるファミリーサポート、一時預かり・一時保育、ショートステイなど
・産後ケア事業(目的や支援内容、利用料、利用方法について)
・保健センターでの健診や育児学級
・子育て・育児支援センターの利用

社会資源の利用だけではなく、身近なサポーターを活用することも有効です。
近くの助産院を紹介したり、家族や友人、近隣の人々との関係を築くことも、育児の孤立感を軽減する助けとなります。

2)メンタルヘルスケア

産後うつやメンタルヘルスに関する問題に対しては、それがどのようなものかを母親と家族に知ってもらい、早期のサポート・介入が行えるようにします。

・ホルモンバランスの変化により、涙もろくなる、不安が強くなる、周りに攻撃的な反応を してしまうことがある
・「育児は大変なもの」それが当たり前として、母親の苦しみを軽視しないようにする
・物事の優先順位が分からない、食欲がない、清潔面が保てないなどの症状がみられたら、 病院に連絡する
・必要に応じて専門家に相談したり、地域につなげてフォローしてもらう。

退院後も育児家事に追われて、母親自身もうつ病になっていることに気付けなかったり、知らないうちに家族が母親を責めてしまっていることもあります。
産後のメンタルヘルスに理解が得られるようサポートする家族を含めた指導が行えるとよいでしょう。
また、入院中にマタニティーブルーの傾向や症状がみられた母親には、特に気にかけて地域に支援をつなげていく必要があります。

3)育児支援やメンタルケア支援を受け入れられない場合

育児のサポート不足があったり、産後うつの場合の症状や受診の必要性を理解していても、実際に自分がそのような状況になると、事実を認められず、第3者の介入や受診を拒否されることもあります。慎重に共感しながらアプローチしていくことが必要です。

・焦らずに相手の話を聞き、共感を示す
・指導的な態度はとらず、相手に寄り添う姿勢を持ち、受け入れられる土壌作りをする
・母乳外来や、小児科での体重チェックなど、本人にとってハードルが低い支援や受診でフォローしながら継続支援を続けていく

受診や介入を強制せず、小さなサポートから提案し、少しずつ本人が助けを受け入れるためのステップを踏めるようにサポートすることが大切です。

4)セルフケアの重要性

多くの母親が家事や育児に追われ、自分自身のケアを後回しにしがちです。母親の健康が家族全体の幸福に直結するため、セルフケアの重要性を説明しましょう。

・適切な睡眠とできるだけ栄養バランスの取れた食事の摂取、リラックスできる時間を持つ
・育児や家事を完璧にこなしたり、100%全力で頑張らなくてよい
・誰かに「頼る」ことを大事にする
・困難なときは無理せず、家事代行や宅配スーパー、ミールキットなど民間のサービスを利用する
・定期的なメンタルヘルスのチェック方法や、ストレスを軽減するセルフケアの方法を伝えておく

サービスの利用は経済的な負担が多少ありますが、家事に対する労力や時間を減らすことができます。何よりも母親と赤ちゃんが元気で過ごせることが大切です。
自分の体を労わりながら、肩の力を抜いて育児をしていいことを伝えていきましょう。

5)夫婦間のコミュニケーションの促進

産後の新しい生活が円滑に進むためには、夫婦間のコミュニケーションと協力体勢が不可欠です。

・夫婦間でのコミュニケーションの大切さや、育児に対する共通の理解を深める
・同じ姿勢で育児に取り組み、育児の大変さや嬉しいことを分かち合う。
・お互いの気持ちや考えを理解し合うために、夫婦の時間も大切にする

良好なパートナーシップを構築し、役割分担ができると、母親の負担や不安を軽減することができ、とても心強いものとなります。

6)新生児のケア

赤ちゃんのお世話や特徴に関する指導は、親が安心して育児に取り組めるよう、具体的で実践的なアドバイスを行うことが重要です。

・赤ちゃんが空腹時に見せるサインや泣き止まない場合の対処法。
・調乳指導(乳首のサイズアップ、ミルク量の増やし方など)
・睡眠環境やリズムの整え方
・#8000の小児救急の相談ダイヤルの紹介
・乳幼児突然死症候群(SIDS)や揺さぶられっこ症候群
・かかりつけ医と予防接種について
・抱っこひもやスリングの適切な使用方法

現代の母親は、乳幼児に関わる機会がほとんどない状態で、親役割を獲得していかなければなりません。
赤ちゃんの抱っこ、オムツ交換から沐浴まで、見たことない、経験したことない方が大半です。
育児に関する知識も母親の親世代とでは異なっている内容もあります。各分野での指導を通じ、親が自信を持って安全に赤ちゃんのお世話ができるように指導しましょう。

7)信頼できる情報源の提供

情報過多の問題に対処するためには、正確な情報にアクセスできるようにサポートしていきます。

・インターネット上の情報に過度に依存しないようにする
・信頼できる育児情報サイトやアプリ、オンライン相談などを紹介する
・育児に関する疑問や不安は、助産師や専門家に相談する
・産後うつのリスクがある母親には、早期発見と対応のためにオンラインカウンセリングやコミュニティへの参加を勧めてみる

多くの情報に惑わされず、正しい情報をキャッチして、ストレスなく育児ができるように支援しましょう。

8)職場復帰に向けた計画の支援

働く母親が増える中、職場復帰に関する悩みも多くなっています。職場復帰に対するプレッシャーを軽減するために、利用できる制度の紹介と復職に向けた計画を早い段階から立てていくことを説明します。

・復職後の職場のサポート体制(育児短時間勤務制度、時間外労働の制限などについて)
・育児と仕事の両立に関するアドバイス
・育児休業の延長
・保育園申請について
・職場復帰後の夫婦間での家事・育児の分担について

家族や職場と復帰後の働き方について話し合う機会を持ち、ワークライフバランスの取れた生活が送れるようサポートします。

 


まとめ

現代の産後の生活には、多くの問題点が存在しますが、それらを適切に対処するための退院指導がますます重要になっています。基本的な健康管理や授乳指導に加え、現代社会の背景を踏まえた新しい視点からのサポートが求められています。信頼できるオンラインサポートや産後ケア事業の活用、メンタルヘルスケア、家族関係の役割調整など、母親が抱える不安や負担を軽減するために多角的なアプローチや指導が必要です。退院指導を通じて、母子とその家族全体が健やかに過ごせるようサポートすることが、現代の助産師としての重要な役割と言えるでしょう。母親が孤立することなく、安心して育児に専念できる環境を整えられるよう、明日からの退院指導に是非役立ててみて下さい。



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