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妊娠期
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2025

“なんとなく”の指導はもう終わり。エビデデンスに基づく乳頭ケアの指導方法|妊婦さんの「やってみよう」を引き出す助産師の言葉は?

  • 乳頭マッサージ
  • 妊娠中
SUMMARY
この記事でわかること
妊婦さんへの乳頭ケア指導、「なんとなく」指導してしまっていませんか?「昔からそうしてきた」「先輩が言っていたから」など“経験と慣習”を頼りに指導してきたけれど、いざ聞かれると「根拠ってなんだっけ?」と迷うことはありませんか?近年では、乳頭ケアの有効性を見直す研究も増え、「やったほうがいい」「やらなくてもいい」など、意見が分かれるテーマになっています。だからこそ、助産師として“自信をもって説明できる軸”を持つことが大切です。この記事では、「これなら自信をもって伝えられそう」と思える乳頭ケアに関する最新のエビデンスと、妊婦さんに伝わりやすい指導方法について解説しています。

乳頭ケアに関するエビデンスについて

最新の研究から見る乳頭ケアの有効性

乳頭ケアは長い間、「乳頭をやわらかくしておくと授乳がスムーズになる」「亀裂を防げる」と考えられてきました。しかし、最近の研究では「妊娠中の乳頭ケアが乳頭亀裂を予防するという明確な根拠はない」とする報告があります。一方で、乳房や乳頭に意識を向けることで、母乳育児への心理的準備が整うという研究結果もあります。つまり乳頭ケアには乳頭亀裂を予防するという“物理的な効果”だけでなく、妊婦さんの「自分の身体への理解を深める」「母乳育児に前向きになれる」といった心理的側面にも効果があります。乳頭亀裂を予防する明確な根拠が得られていないとしても、妊婦さんの心理面への効果が期待できるのであれば妊婦さんたちに正しい乳頭ケアの知識を届ける必要があります。助産師は「どんな目的で」「どんな人に」ケアをすすめるのかを丁寧に考える必要があります。“みんなに同じ指導をする”のではなく、“一人ひとりに合わせたケアを提案する”ことが求められます。

乳頭ケアの方法

以下のケアの手順は、日本母性衛生学会『母性看護・助産ガイドライン2023』および日本産婦人科学会『産褥期乳房トラブル対応の手引き(2021)』の内容を参考に、一般的な指導の流れとしてまとめています。実際のケアは妊婦さん一人ひとりの体調や妊娠経過によって異なるため、指導の際は個別の判断が必要です。

  • 乳頭ケアを始める時期の目安
    妊娠後期(36週以降)から始めるのが安全とされています。 それ以前に乳頭を刺激すると子宮収縮を誘発する可能性があるため、切迫早産や出血のある妊婦さんは乳頭ケアを控えるよう指導します。
  • 方法の選び方
    オイルやラノリンを使った保湿、温罨法などさまざまな方法がありますが、重要なのは「何を使うか」よりも“どんな目的で行うか”です。近年では、マッサージよりも「保湿を目的とした軽いケア」や、「乳頭を観察して自分の状態を知る」など、刺激を控えめにした方法が主流となっています。
  • 注意しておきたいポイント
    切迫早産・前置胎盤・皮膚疾患などのある妊婦さんは、子宮収縮を誘発する可能性があるため乳頭刺激を避けるようにします。また、乳頭への強過ぎる刺激や長時間のケアは皮膚トラブルにつながるため、「やりすぎないこと」も大切です。ケアを実施する際には爪を短くきり、皮膚を傷付けないようにします。

乳頭ケアの目的は、赤ちゃんの吸いつきを良くすることだけでなく、妊婦さん自身が自分の身体と向き合うきっかけを持つことでもあります。その時間を安心して過ごせるように支えることが、助産師の大切な役割です。 

乳頭ケアを指導する際のことば選び

妊婦さんの行動を止めてしまう「4つの壁」

妊婦さんに指導をしても、なかなか行動に移してもらえないことはありませんか?その背景には、妊婦さんの中にある4つの心理的な壁が関係している場合があります。

  1. 不安・恐怖の壁:「痛そう」「早産にならないかな」と感じる怖さ
  2. 面倒・習慣の壁:「続けるのが大変」「つい忘れてしまう」といった負担感
  3. 羞恥心の壁:「自分で触るのが恥ずかしい」「人に話しにくい」という抵抗感
  4. 効果への疑問の壁:「やって意味があるのかな?」という半信半疑な気持ち

これらの感情は、どれも自然なものです。そのため、まずは「そう感じるのは当然ですよね」と共感を示すことが大切です。理解されることで、妊婦さんの心は少しずつ開いていきます。妊婦さんがどんな不安や悩みを抱えているのか理解して、行動に移すにはどんな方法が適しているのかまで考えられると乳頭ケアを継続しやすくなります。

伝え方で変わる!NG/OKフレーズ集

○妊婦さんへ乳頭ケアを初めて指導するとき

NG:「乳頭が硬いと赤ちゃんが上手く吸えなくて切れちゃうから、マッサージしておいてね」
→「授乳で乳頭が切れてしまうの?痛いのかな?」というような授乳への不安を強めてしまう可能性があります。また「しておいてね」という声かけは「やらなきゃいけないんだ」という義務感を与えてしまいます。

OK:「母乳育児をスムーズに始めるためケアがあるのですが、少しお話してみませんか?」
→ ポジティブな印象で、選択肢として提案する言い方です。

○乳頭ケアを継続できていないとき

NG:「ちゃんと乳頭ケアしてますか?」
→ケアを自宅で継続できているのか確認しているだけだとしても「ちゃんと乳頭ケアしてますか?」という言い方では乳頭ケアをしていないと疑われたように感じたり、乳頭ケアしていないことを責められたように感じてしまう可能性があります。

OK:「毎日続けるのは大変ですよね。お風呂上がりに1分だけ取り入れるのはどうですか?」
→ 継続することの大変さに共感し、継続しやすい方法を提案することで自宅で妊婦さんが取り組みやすくなります。

言葉のトーンを少し変えるだけで、妊婦さんの受け止め方は大きく変わります。乳頭ケアを“やってもらうために伝える”のではなく、妊婦さんに“安心してもらうために伝える”という意識を持つことで、自然と行動につながっていきます。

タイプ別に言葉を変えてみる

妊婦さんの性格や考え方に合わせて、言葉を使い分けることも効果的です。

心配性で不安の大きい妊婦さんには「37週に入ってから始めるのが安心ですよ」「刺激するのが不安なら保湿をするのも良いですよ」など妊婦さんが安心できる情報を伝えます。

多忙で自分の時間を確保しにくい妊婦さんには「この方法なら短時間でできて、保湿効果もあります」と気軽に継続できる方法を提案します。

相手の性格やペースに合わせて言葉を選ぶことで、無理のない前向きな行動を引き出せます。指導は“伝えること”が目的ではなく、“届かせること”が大切です。そのために、助産師には相手の気持ちを理解し、妊婦さんに寄り添うことが求められます。


乳頭ケアに関する研究は、効果があるとするものもあれば、明確な根拠がないとする報告もあります。だからこそ、助産師が最新の情報を知り、“その人にとってどうするのが良いか”を一緒に考える姿勢が求められています。エビデンスは、妊婦さんを説得するためのものではなく、助産師自身が安心して指導するための“お守り”です。根拠を持つことで、自信をもって伝えられます。そして、自信を持って伝えることで、妊婦さんも安心できます。明日からの乳頭ケア指導を、もっとあたたかく、もっと自信を持てる時間にしていきましょう。

参考文献

  1. 日本母性衛生学会『母性看護・助産ガイドライン2023』
  2. 日本産婦人科学会『産褥期乳房トラブル対応の手引き』(2021)
  3. WHO. Breastfeeding counselling: a training course. 2018.


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