
会陰マッサージの目的は、出産時の裂傷や会陰切開のリスクを減らし、分娩後の疼痛や回復への負担を軽減することです。妊娠34週以降にマッサージを行った初産婦は、行わなかった群に比べて会陰切開や第2度裂傷の割合が有意に低下したという研究結果があります。また助産師によるプログラムを導入した群でマッサージ実施率が83%に上昇し、裂傷率が減少したという研究結果もあります。会陰マッサージは出産時の外傷リスク軽減に一定の効果を示すことが明らかになっていますが、すべての妊婦さんに同じように効果が出るわけではありません。助産師は「予防効果が期待できるが、万能ではない」ことを丁寧に説明する必要があります。
日本助産学会のガイドラインや国内の臨床研究では、妊娠34〜36週頃から週1〜2回、1回5〜10分を目安に行うことが推奨されています。強い刺激を与える必要はなく、痛みを感じない範囲でゆっくりと会陰を伸ばすことが大切です。マッサージの頻度を増やしても効果が高まるとは限らないため、妊婦さんが無理なく続けられるペースを尊重します。パンフレットや実技指導など実際の動きをイメージできる説明が、妊婦さんの実践意欲を高めます。
潤滑剤として無香料・低刺激の植物性オイルの使用が推奨されています。スイートアーモンド油、ホホバ油、オリーブ油などが一般的で、香料や保存料を含む製品は避けます。オイルで皮膚に異常が起こらないか少量を狭い範囲に使用して確認してから使用するのが安心です。カンジダ症や腟炎などの感染症がある場合は、マッサージを中止します。また、皮膚炎やかゆみがある場合も刺激を避けることが望ましいとされています。マッサージを再開するタイミングは医師の診察を受け、症状が改善したことを確認してからが望ましいです。
このような場合には、会陰の保湿、温罨法やリラクゼーション法など会陰マッサージ以外の代替ケアを提案し、安全な出産準備を支援します。

妊婦さんが「やらなければならない」と感じると、かえって抵抗が強くなります。「無理に行う必要はありませんが、興味があれば安心してできる方法をお伝えします」と伝えることで、妊婦さんが自分のペースで選択できるようになります。羞恥心や不安を軽視せず、まずは気持ちに寄り添う姿勢で信頼関係を築いていきましょう。

会陰部マッサージのやり方 より引用

会陰部マッサージのやり方は? より引用
腟内に指を入れることに抵抗がある場合は会陰をマッサージする方法を提案します。

会陰部マッサージのやり方 より引用
助産師がイラストや動画、ジェスチャーなどを交えて説明することで妊婦さんの理解度と実践率が向上します。会陰マッサージに抵抗が強く実施が難しい場合にはオイルパックの手順などを伝えましょう。
オイルパックの手順
①コットン2枚にオイルを浸します。
②1枚のコットンを腟に少し入れ、もう1枚は会陰の部分に当てます。
③ナプキンなどをあて、30分~1時間浸透させます。終わった後はコットンを取り除き、オイルが気になる場合は軽くふき取ります。
妊婦さんの希望があれば、パートナーと協力して行うことも可能です。「一緒に取り組むことで、出産への意識を共有できる」というメリットを伝えるとパートナーの協力を得やすいです。ただし、妊婦さん本人に抵抗がある、パートナーに抵抗がある場合は無理に勧めないようにしましょう。
Q. 効果は本当にありますか?
A. 会陰裂傷を完全に防ぐものではありませんが、研究では発生率を減らす傾向が示されています。初産婦では特に有効とされています。
Q. 痛みが出たらどうすればいいですか?
A. 痛みを感じた時点で中止し、翌日以降に再開します。無理に続ける必要はありません。
Q. オイルは何を使えばいいですか?
A. 無香料・低刺激の植物性オイルをおすすめします。皮膚や粘膜に異常がある場合は使用を控えてください。
会陰マッサージは出産準備の選択肢の一つです。やりたくないという気持ちを否定せず、代わりにできるケアを一緒に考えましょう。会陰の保湿や温罨法、リラックス法、骨盤底筋のストレッチなども血流を促し、会陰の柔軟性を高める効果があります。大切なのは、妊婦さんが自分で決めて取り組めるように支援することです。
会陰マッサージは、出産時の会陰裂傷を予防する有効な手段の一つとして、国内外で一定の効果が認められています。しかし、科学的根拠と同じくらい大切なのは、妊婦さん一人ひとりの気持ちや価値観に寄り添う姿勢です。助産師が正確な知識をもち、安心感のある言葉で伝えることで、妊婦さんは自分に合った方法を自信をもって選択できるようになります。「やる・やらない」のどちらを選んでも、その選択を尊重し関わることが大切です。妊婦さん本人の希望や選択を尊重しつつ、助産師として正しい知識を提供し、出産準備に前向きに取り組めるように支援していきましょう。





