流産とは妊娠22週未満に妊娠の中断が起こることをいい、起こる週数や状況によって治療法は様々です。
流産と診断された女性は、深い悲しみと自責の念に駆られやすいといわれています。診断の場面、治療の場面で女性のそばに寄り添い関わるのは助産師であり、女性がその体験と向き合い受け入れられるように関わる役割が私たちにはあります。
ここから流産の種類や治療、ケアについて学び、助産師としての役割はなにかを考えていきましょう。
・自然流産
自然に妊娠の中断に至るものをいいます。
・人工流産
人為的に妊娠を中断するもの、いわゆる人工妊娠中絶のことをいいます。
・早期流産
妊娠12週未満の流産を早期流産といい、主な原因としては胎児の染色体異常が最も多いとされています。
・後期流産
妊娠12週から22週未満の流産を後期流産といいます。後期流産とは医学的な定義であり、法的には妊娠12週以降の流産を死産といいます。後期流産の主な原因としては頚管無力症や絨毛膜羊膜炎などの母体要因が多いとされています。
・切迫流産
切迫流産とは流産発生の危険がある状態のことをいい、少量の性器出血や軽度の下腹部痛、下腹部緊満感、腰痛などの症状が出現します。診察にて子宮口未開大で、胎芽(胎胞)、心拍動を認めます。切迫流産は妊娠の継続が可能です。しかし、妊娠初期の場合には有効な治療法はありません。
・稽留(けいりゅう)流産
胎児(胎芽)が子宮内で死亡し、子宮内に停滞しているが、母体に自覚症状がない状態のことをいいます。少量の出血を認めることもありますが、ほとんどは無症状なことが多く、診察にて子宮口未開大で、枯死卵を認めます。
パンダ先輩
枯死卵とは、胎嚢はあるけれどその中に胎芽あるいは胎児およびその付属物が認められない所見のことだよ!
・進行流産
流産が進行している状態のことをいい、切迫流産に比べて多量の性器出血と陣痛様下腹部痛を伴います。診察にて、子宮口は開大し、胎児(胎芽)を認めない状態、または胎児(胎芽)を認めても心拍動がない状態となっています。
・不全流産
流産が進行した結果、胎児(胎芽)およびその付属物が完全に排出されず、一部が残った状態のことをいいます。この時にはまだ出血や下腹部痛が持続していることが多いです。診察にて、子宮口は開大し、胎児(胎芽)を認めない状態、または胎児(胎芽)を認めても心拍動がない状態となっています。
・完全流産
流産が進行した結果、胎児(胎芽)およびその付属物が完全に排出された状態のことをいいます。完全流産になると、今まで存在していた出血や下腹部痛が軽減または消失します。診察では、子宮口は閉鎖、胎児(胎芽)を認めない、また胎嚢の消失が確認されます。
・反復流産
自然流産を2回繰り返した場合を反復流産といいます。流産を2回繰り返す頻度は2〜5%とされています。
・習慣流産
自然流産を3回以上繰り返した場合を習慣流産といいます。流産を3回以上繰り返す頻度は約1%とされています。
流産を繰り返す不育症のリスク因子として、子宮の形態異常や全身性エリテマトーデス、抗リン脂質抗体症候群といった自己免疫力疾患、甲状腺などのホルモンの異常、夫婦いずれかの染色体の構造異常などが知られています。しかし一方で不育症の精密検査を行なっても、半数以上が原因不明と言われています。
妊娠12週未満ならば待機的療法または子宮内容除去術(D&C)が適応となります。
・待機的療法
13週未満、感染徴候なし、バイタルサインが安定しているなどの条件を満たせば可能であり、平均的には2週間後にはおよそ75~90%前後が排出されます。2週間で排出しない場合にも4週間くらいの待機が概ね許容されています。また、待機する場合には、受診している施設に常時連絡がつく形で行います。
・手術
待機的療法においても出血が多い場合や、子宮内容物の感染が見られる場合には速やかな手術療法への移行が必要です。手術はD&Cが主体でしたが、術後の子宮腔内癒着の発生を考慮して、吸引器を用いて掻爬を行わない術式(D&E)と、Manual Vacuum Aspiration(MVA)が普及しつつあります。
術中術後合併症に、子宮穿孔や腸管穿孔、頸管裂傷、子宮内容遺残、出血、感染、アッシャーマン症候群(子宮腔癒着症)などのリスクがあります。
待機的療法 | 手術 | |
メリット | ・自然な回復が望める場合が多い ・手術および麻酔に関連したトラブルがない | ・早期に流産が解決できる ・日常生活への復帰の目処がつきやすい |
デメリット | ・出血が大量になったり強い痛みを伴うことがある ・いつ自然排出が起きるか予想ができないので、予定が立てにくい ・手術を必要とすることもある | ・手術や麻酔に対する恐怖と、処置に関連したトラブルが低頻度ながらある |
妊娠12週以上22週未満の場合は死産扱いとなり、胎児が大きいので子宮内容除去術は母体にとって危険になります。そのため人工的に陣痛を誘発し分娩させます。
処置は子宮頸管拡張、子宮収縮薬投与、子宮内容遺残確認の3段階で行います。子宮収縮薬やゲメプロスト(プレグランディン)またはオキシトシン(アトニン)、ジノプロスト(プロスタルモンF)を使用します。
後期流産後には乳汁漏出をきたすことがあり、冷罨法等により軽快することがありますが、プロモクリプチンメシル酸塩(パーロデル錠)あるいはカベルゴリン(カバサール)の投与が必要となることがあります。
パンダ先輩
薬剤については「【産科の基礎知識】分娩誘発剤・促進 剤を徹底解説!種類と看護のポイント」の記事を確認してね!
流産や死産を経験した女性は強い悲しみを抱え、日常生活への支障をきたす人も多くいます。こうした悲嘆は喪失に適応するための正常な反応ですが、長引き慢性化すると、極度の不安、抑うつ、PTSDなどの精神保健上の問題が生じることもあります。ただし、適切な介入・支援によって問題を軽減することも可能だといわれており、その場に立ち会う助産師が女性の悲嘆の支援に果たす役割は大きくあります。
1) グリーフケア(悲嘆へのケア)
流産死産を経験した女性に対し、話を聞いてもらうこと、それぞれの経験や悲しみ方をありのままに受け入れてもらえること、さまざまな感情を表出できること、十分に悲しむ時間や話す時間を持てることが必要とされています。また、女性だけでなく喪失を抱えた家族全体をケアするという視点が不可欠になります。
支援者の基本的な姿勢として、”無理に聞き出そうとしない””語られる内容にゆっくりついていく”ということが大切です。悲しむ人をまえにすると「がんばって」などの”励ましの言葉”をかけたくなりますが、その言葉によってさらに自責の念を抱えてしまうこともあるため気を付けましょう。また女性によっては、ショックが強くて言語化ができない場合もあります。そのようなときには、その人なりのペースで話すのを待つようなたいおうが求められます。沈黙の時間も必要な場面があるため、対話には時間をかける必要があります。
2)医学的な説明
医療者、特に医師が行う重要な支援の一つに、流産や死産の経過や原因について医学的な説明を尽くすことがあげられます。そこで助産師は説明の場に同席し、女性や家族の反応をみながら、説明の補足や思いを引き出す手助けをしていく必要があります。
3)家族の希望の確認
周産期の死(特に死産)において、「家族が赤ちゃんとどのように出会ってお別れをしたいのか、対面の中でどのようにいい思い出を作れるのか」といったケアは重要になります。施設において、どのような対応が可能なのかを検討し、面会や抱っこ、写真撮影、記念品作成などを提案し、家族と話し合うことが推奨されています。ただし、思い出の時間や品を残すことは両親にとって非常によかったケアとして受け止められていますが、そのようなケアを希望しない方もいます。家族が抵抗を示す場合には、押しつけにならないように配慮しましょう。
4)これから生じるさまざまな感情とその感情への対処の説明
流産や死産を経験した女性や家族は、その喪失への適応の過程を経ていくことになりますが、喪失の体験やその悲しみは一人ひとり異なります。悲しみの感じ方やそのプロセス もさまざまなので、「これからさまざまな感情が生じるかもしれないこと、その表れ方は人によって違うこと、どのような気持ちを感じたとしても、その気持ちを否定しなくてい いこと」を伝えておくことは、予期的な支援の一つとなります。
5)産後健康診査や検診の活用自治体との連携
産後健康診査や検診の場は、流産死産をした女性にとって、その場の身体の状態を確認してもらうだけでなく、喪失の経緯を知る医療者に、自分の状況や抱えるつらさを離せる 貴重な機会です。十分に時間をとって、ゆっくりと話を聞くことのできる体制を整えることが必要です。また心身の状態について、本人の同意のもと、自治体と情報共有し、連携 をとりつつ継続して支援にあたることが望まれます。さらに、自治体の支援としてピアサポートグループや自治体の相談窓口が利用できることも説明しましょう。
6)きょうだいへの説明や対応の助言
生まれてくるはずのきょうだいを失った子どもは、精神的に不安定な状況に置かれることがあります。しかし一方で、自信も強い悲嘆に直面する中、亡くなった子どものことをきょうだいにどのように話していいかわからず悩む家族も多くいます。このことで困難を抱えていると分かったときには、きょうだいにどのように対応し、説明をすればよいか助言し、家族の負担を軽くすることも、私たちができる支援の一つです。
流産と診断された女性とその家族は深い悲しみを抱えたうえで治療を行います。そのような方に私たち助産師がどのように関わることがいいのか。女性や家族によって悲嘆のプロセスや求めている支援も違うため、この支援が正しいというものはありません。助産師として何か支援をしたい、でも女性からしたら触れてほしくない、そんな場面でジレンマを抱えることも多くあるかもしれません。しかし、女性と家族に寄り添うこと、抱えている思いを受け入れることは、誰にとっても必要なことです。女性と家族に寄り添ったケアができる助産師になっていきましょう。
【参考文献】
・病気がみえるー産科ー
・公益社団法人日本産婦人科学会HP https://www.jsog.or.jp/citizen/5707/
・公益社団法人日本産婦人科医会HP
4. 妊娠12 週未満の人工妊娠中絶手術による合併症(日本産婦人科医会調 査結果より) – 日本産婦人科医会
・産科医療機関スタッフのための流産・死産・人工妊娠中絶を経験した女性等への支援の手引き