【助産師必修】新生児の心雑音の原因は?種類とそれぞれの対応を学ぶ
- 新生児
- 親への対応
- 疾患と治療
心雑音とは、心臓の動きによって血流が心臓や血管内を通る際に発生する音で、聴診器で聴くことができます。新生児において心雑音が聞かれることは珍しいことではありません。「ドックン、ドックン」という心臓の音の間に「ザー」というような心雑音が聞こえます。新生児の心雑音の多くのケースは、無害であり特に治療を要しない「機能性心雑音」と呼ばれるものです。しかしながら、心雑音が重篤な心疾患に関連していることもあるため、専門的な評価を必要とするケースもあります。慎重に観察し、正しく観察できることが大切です
1.心雑音の初期評価
新生児の心音聴取は児が平常時に行い、1分間測定して心拍数やリズム、心雑音の有無を確認します。
心雑音が聴取できる場合は、音質(強さ、音の高さ、タイミング、持続時間)を確認しましょう。
1)正常な心音と異常な心音
パンダ先輩
心臓の音は、「ドッ・クン」と二つの音が聴こえるよね。この二つの音はⅠ音とⅡ音という形で区別されているよ。
まずは正常な心音をおさらいしていこう。
①正常な心音とは?
Ⅰ音:僧帽弁・三尖弁の閉じる「ドッ」という音で心室の収縮期の始まりの音
Ⅱ音に比べて低く小さな音
Ⅱ音:大動脈弁・肺動脈弁の閉じる「クン」という音、拡張期の始まりの音
②異常な心音とは?
正常な心音以外の音
・Ⅰ音と同時、Ⅰ音の後からⅡ音まで、Ⅱ音の前に終わる収縮期雑音
・Ⅱ音と同時もしくはⅡ音の後~次のⅠ音の前までに終わる拡張期雑音
つまり「ドッ」と「クン」の間や「クン」と「ドッ」の間に「ザーッ」など他の音が聴こえます。
これは、心臓の壁に穴が開いていたり大動脈や肺動脈弁の開きが悪かったり、僧帽弁や三尖弁の閉まりが悪いなどあると心雑音が聴こえるようになります。
2)心雑音の強度
心雑音の強度はLevineの分類(表1)を用いて評価します。数字が大きくなるほど音が強いことを表しています。
新生児は最大でⅢ度となっています。
表1)Levineの分類
第Ⅰ度 | 注意深く聴診することで聴き取れる微弱な雑音 |
第Ⅱ度 | 聴診器を当てるとすぐに聴き取れる弱い雑音 |
第Ⅲ度 | Ⅱ度とⅤ度の中間で弱い雑音。振戦を触れない |
第Ⅳ度 | Ⅱ度とⅤ度の中間で強い雑音。振戦を触れる |
第Ⅴ度 | 聴診器で聞こえる最大の雑音。聴診器を離すと聴き取れない |
第Ⅵ度 | 聴診器を胸壁から離しても聴こえる大きな雑音 |
3)全身状態の観察
心雑音以外の症状(呼吸困難、チアノーゼ、成長不良、哺乳困難など)があるか確認しましょう。
症状がある場合は、早急に専門的な診断が求められます。
2. 心雑音の原因と種類
新生児において心雑音が起こる原因は多岐にわたります。まず、新生児は胸壁が薄いため、大人より心雑音が聞こえやすいです。
また新生児は、心臓や血管が成長過程であるため、血流の速度や方向が不規則になりやすく、心音に変化が生じることが一般的です。
多くの新生児が経験するこの「機能性心雑音」は、正常な血流が原因で発生します。このタイプの心雑音は通常、特定の治療が必要なく、成長と共に自然に消えることがほとんどです。そのため、新生児は、心雑音があれば必ず病気というわけではありません。また、心雑音の強弱と心疾患の重症度も一致しません。
一方で、「病的心雑音」は、先天性心疾患などの基礎疾患が原因で発生することがあります。
心臓内または主要な血管に異常があり、血流に影響を及ぼすために心雑音が発生します。
代表的な先天性心疾患には、心房中隔欠損症(ASD)、心室中隔欠損症(VSD)、動脈管開存症(PDA)などがあります。
全ての心疾患に心雑音があるわけではなく、むしろ心雑音のない心疾患のほうが重症度が高いです。
3.聴診部位から推定される疾患
新生児の心音の聴取は、まずはじめに第5肋間胸骨左縁(心尖部)にあて聴診します。
次に第2~3肋間胸骨右縁、第2~4肋間胸骨左縁、剣状突起と順番に聞いていき、位置や放散する方向も重要となります。
心雑音が聞こえた場合は、心雑音が聴取できた部位から心疾患を推定することができます。
第2~3肋間胸骨右縁 | 大動脈弁狭窄症、大動脈縮窄症 |
第2~3肋間胸骨左縁 | 肺動脈弁狭窄症、動脈管開存症、心房中隔欠損症 |
第3~4肋間胸骨左縁 | 心室中隔欠損症 |
第5肋間胸骨左縁 | 僧帽弁狭窄症、僧帽弁閉鎖不全症、僧帽弁逆流症 |
剣状突起下 | 三尖弁閉鎖不全症 |
4.心雑音の聞こえるパターンや時期から推定される疾患
1)心臓が収縮する時に聞こえる雑音
大動脈弁・肺動脈弁狭窄症僧帽弁・三尖弁閉鎖不全症
心房中隔欠損症、心室中隔欠損症
2)心臓が拡張する時に聞こえる雑音
大動脈弁・肺動脈弁閉鎖不全症、僧帽弁・三尖弁狭窄症、心室中隔欠損症
3)心臓が収縮する時も拡張する時も聞こえる雑音
大動脈弁狭窄症➕大動脈弁閉鎖不全症、動脈菅開存症
4)Ⅱ音の亢進と収縮期雑音が多い
ファロー四徴症、心室中隔欠損症、動脈管開存症
5)時期
出生直後:大動脈弁・肺動脈弁狭窄、僧帽弁・三尖弁逆流、ファロー四徴症
数日後経過:心室中隔欠損症、動脈管開存症
5.見逃してはいけない徴候
はっきり心雑音が聴取できる場合は、医師への診察依頼も行いやすいです。
しかし、かすかに聞こえる心雑音や、心雑音は聞こえないけど、様子がなんだかおかしいと言った場合も注意して観察し、医師の診察を仰ぐ必要があります。
・SPO2が上昇しなかったり、左右差・上下肢差があるとき
・哺乳不良・体重増加不良
・多呼吸・陥没呼吸
・多汗・手足の冷感
・チアノーゼ
・尿が少ない
これらの症状がある場合は心疾患が疑われます。
心雑音の有無を確認するのと同時に、上記のような症状がないかも確認しましょう。
6. 診断方法とコンサル
心雑音が生理的なものである場合、特別な治療は必要なく、定期的な健診で経過を観察します。
多くの場合、成長と共に心雑音は自然に消失します。一方で、先天性心疾患や病的心雑音が見つかった場合は、状況に応じた治療が必要となります。特徴的な顔つき、口唇裂、口蓋裂のある児に心雑音があった場合も心疾患を併発している場合も多いので、小児新生児科医師へ報告しましょう。
また、前述したように、心疾患が疑われる症状とSPO2≦94%であるときは、呼吸器疾患と心疾患の両方の可能性が疑われます。
右手と下肢とのSPO2差が≧5%持続するときは、大動脈弓奇形(大動脈弓離断・大動脈狭窄)や大血管転位の疑いがあり、早急に精査が必要となります。そのため、心雑音が聞かれた場合には、心疾患を疑う他の症状がないかも合わせて観察した上で、速やかに小児新生児科医師へ報告することが求められます。その上で小児循環器専門医による精密検査が推奨され、心雑音が生理的なものか、または病的なものかを判断していきます。
以下は主な診断方法になります。
心エコー検査(超音波検査):心臓の構造や血流を詳細に評価する
心電図(ECG):心臓の電気的活動を記録し、異常があるかを確認する
胸部X線:心臓の大きさや形状を確認する
7.新生児によくみられる心疾患と治療方針
1)心室中隔欠損症(VSD)
特徴:心室間に穴が開いており、血液が左右の心室間で異常に流れる疾患。
新生児で最も一般的な先天性心疾患。
症状:心雑音、呼吸困難、哺乳困難、成長遅延
治療方針:小さな欠損の場合は自然に閉じることが多く、経過観察
大きな欠損の場合、手術による修復(心臓外科的手術)
心不全の徴候がある場合、薬物治療(利尿薬、ACE阻害薬など)
2)動脈管開存症(PDA)
特徴:胎児期に開いている動脈管が生後も閉じずに残っている状態。
症状:心雑音、呼吸困難、頻呼吸、哺乳困難、成長不良
治療方針:小さな動脈管の場合は自然に閉じることがあるため経過観察
薬物療法(インドメタシンやイブプロフェン投与で動脈管を閉じる)
薬物療法が効果的でない場合や症状が重い場合、カテーテル治療や手術で閉鎖
3)心房中隔欠損症(ASD)
特徴:心房間に穴があり、左心房から右心房へ血液が流れる疾患。
小さな欠損は無症状のことが多い。
症状:心雑音、呼吸困難、疲労しやすい、反復する肺感染症
治療方針:小さな欠損は自然に閉じることがあり、経過観察
大きな欠損の場合、カテーテル治療や外科的手術で修復
4)肺動脈弁狭窄症(PS)
特徴:肺動脈弁が狭く、右心室から肺へ血液が流れにくくなる疾患。
症状:心雑音、チアノーゼ、息切れ、疲労感
治療方針:軽度の場合は経過観察
重症の場合、カテーテルによるバルーン弁形成術(弁の拡張)や外科手術
5)ファロー四徴症(TOF)
特徴:心室中隔欠損、肺動脈狭窄、右心室肥大、大動脈騎乗の4つの異常が組み合わさった疾患。
症状:チアノーゼ、呼吸困難、哺乳困難、成長遅延
治療方針:チアノーゼ発作が頻繁な場合、早急に手術
根治手術として心室中隔欠損の閉鎖や肺動脈の拡張を行う
長期的なフォローアップが必要
8.親への対応
多くの親は自分の子供に心雑音があると聞くと、不安に感じる方がほとんどだと思います。まずは、心臓の発達や血流の変化に関する正常な現象もあることを理解できるように説明することも大切です。また医師の説明中は、説明を聞くのが精一杯で質問もできなかったりします。
説明後に疑問点や不安なことはないか、精神面のフォローをしていくことも必要です。
退院後も安心して過ごせるように、異常の有無の観察や注意点などポイントを説明して、異常があればすぐに医療機関に相談してもらうよう伝えましょう。
まとめ
新生児の心雑音は、多くの場合、成長と共に自然に消える「機能性心雑音」であり、特別な治療を必要としないことがほとんどです。しかし、先天性心疾患などの病的な原因がある場合には、早期の診断と適切な治療が重要です。赤ちゃんは、苦しくても「苦しい」と訴えることはできません。
しかし、心雑音をはじめ、何かしらの「苦しい」サインを出しています。私たち助産師は、それらのサインを見逃さず異常に気付ける観察力を持ち、赤ちゃんの健康を守れるようにしていきたいですね。
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